縁というのは奇妙なもので、私は大嫌いだったはずのミキとシェアハウスを始めた。
 ミキとの再会は、望んでいたものではない。
 家探し中に、不動産屋でばったり遭遇しただけ。

 押し切られるように、「シェアハウスしようよ」という言葉に頷いたのは……おいしそうなごはんの写真と、猫に釣られたからもある。
 それに、安い家賃は、私には助かったのだ。

 三十目前にもなって、正社員は辞めてしまったし、貯金はほぼない。
 借金がないだけ、まだマシくらいの私の人生。

 目の前に出された熱々のグラタンを、ふぅふぅっと冷ます。
 奇怪な出会いを思い返していれば、ミキはいつものように私を見つめてから「早く食べなよ」と急かした。

「食べるって」
「熱々のものは、熱々のうちが一番に決まってんでしょ」
「その決めつけもどうかと思うけど」

 それでも、熱いものは、熱いうちが一番おいしいには同意だ。
 ミキは、少食のくせにごはんを作りすぎる癖がある。
 だから、一人暮らしではなくシェアハウスにこだわっていたらしいけど。

 そして、その作りすぎる癖は、ごはんだけではない。
 料理全般だった。
 ストレスが溜まれば、お菓子を作り始め、誰に渡すでもなくたっぷりとクッキーが詰まったクッキー缶を作る。

 それを消費するのは、私だ。
 それなのにミキとシェアハウスを始めてから、食べる量が減ってるんだから不思議だ。

「で、今日は……はぁ」

 ミキに問いかけようとして、目の端に大きなタルトケーキが映る。
 今日はどうやら、タルトケーキだったらしい。
 色とりどりの果物がツヤツヤと輝いていて、おいしそうではある。