ある日の朝。

「こんにちはー。モモ先生、鷲見(すみ)が来ましたよー。原稿の進捗どうですかー?」

 モモと光香の家にやって来たのは、モモの担当編集鷲見千歳(ちとせ)(三十歳、独身女性)である。

「げっ! スミィじゃん! なんでいんの!」
「なんでいんの、じゃないですよ! モモ先生、原稿! てか私の電話番号、着拒するとかひどいです! 外してくださいよ!」
「やだよ! だってうるさいんだもん!」
「うるさいのはあんたが仕事しないからでしょーが!!」
「うわぁ、出たよひとのせい。いい歳してそーゆうのよくないよ〜?」
「くっ……(殴りてぇ……っ!)」

 今日は、モモの次回作の原稿提出期限日。
 モモは鷲見の電話番号を着信拒否しているので、わざわざ家まで取りに来るのである。

「鷲見さん、いつもわざわざすみません。どうぞ、なかでお待ちください」

 鷲見はため息をつき、光香に一礼して部屋へ入った。
 原稿の提出期限は今日中。
 もちろん原稿はまだ完成していない。

「鷲見さん、飲み物はコーヒーでいいですか?」
「あ、おかまいなく……(光香さん、相変わらずめちゃくちゃ美人……♡)」

※スミィは光香ファン。

「デレスミィきも」
「なんか言いましたか。てか、そのあだ名やめてください」
「れいちゃん、私もコーヒー飲みたーい」←スミィは無視。
「はいはい」

 それからしばらく。

「――ねぇれいちゃん、お腹減った」
「はいはい。今日はポテトグラタン作ったよ」
「やったーポテグラ!! ポテトサラダとじゃがバターもつけて!」
「はいはい。ポテトサラダとじゃがバターね」

「…………」←スミィ。

「モモ、りんご剥いたけど食べる?」
「ん〜めんどくさい〜。食べさせて〜」
「仕方ないなぁ」

「…………」←スミィ。

 昼。

「――ねぇれいちゃん、喉乾いた」
「はいはい。お茶とジュースとコーヒーどれがいい?」
「れいちゃん特製のスムージー!」

「…………」←スミィ。

「――ねえねえれいちゃん、ゲームしよーよ!」
「そんなことよりモモ、原稿は終わったの? 鷲見さん待たせてるんだから遊んでちゃダメだよ」
「気分転換くらいいーじゃん!」
「もうしょーがないなぁ……一回だけだよ? 一回やったら原稿ね?」
「うん!」

「…………」←スミィ。

 そして、夜。

「原稿終わったー!!」
「お疲れ様でした……!!」

 鷲見はなぜかモモではなく、光香に深く頭を下げた。

「ちょっとスミィ! 原稿書いたのは私だよ!」
「いやぁすみません。モモ先生に尽くす光香さん見てたらつい……(つーかこのひと、光香さんとルームシェアするまでどーやって生活してたんだろ)」
「落ち着いてモモ……鷲見さんも。モモの言うとおり、私はなにもしてませんよ」
「そうだよ! 偉いのはわ、た、し!」
「……光香さん、あんまりモモ先生を甘やかしちゃダメですよ(つけ上がるから)」
「失礼な! まだまだ甘やかしが足りないくらいだよ!」
「モモ先生のメンタルって、マジでどーなってるんすか」