――光香ちゃんはとってもきれいな子だね。頭もいいし、将来が楽しみだ。
私は幼い頃から、いつもまわりにそう言われて生きてきた。
家のなかだけでなく、学校でも先生やクラスメイト、下級生たちにちやほやされるのが日常。
だから、まわりの期待に応えるのは当たり前で、そのためにじぶんを犠牲にすることなんて、なんてことないと思っていた。
大人になったら親が望んだ仕事について、そのうち私を好きって言ってくれる男性のひとりと結婚して家庭に入るんだろう。
それが私の人生なんだと、そう信じていた。
あの子に出会うまでは。
これは、大学生の頃、私が運命に出会った話。
***
藤城光香、大学三年。二十歳。
「見て〜光センパイ、めっちゃ美人!」
「脚長〜」
「あたし昨日ハンカチ拾ってもらっちゃったんだ。家宝にするの」
「えっ、なにそれずるーい! ぜったいわざとでしょ!」
「えへっ、バレた?」
「もー! サイテーじゃん! でもあたしもやりたい……」
※光香、ガッツリ聴こえてます。
私はひとよりきれいだ。
昔から羨ましがられてきたし、みんなちやほやしてくれるから、じぶんは恵まれているのだと自覚している。
私はじぶんの容姿が好きだし、感謝もしてる。……だけど、たまーに苦しくなる。
ひとよりきれいだと、どうしたって期待される。
少しでも期待はずれな面があると、幻滅される。
だからずっと、みんなの理想を演じなきゃいけない。
だけどこの気持ちを言ったら、それこそ贅沢だって笑われる。
私は笑顔を崩さないまま、現在は使われていない大学構内の外れにある研究室へ向かった。
鍵を開けてなかに入り、内側から鍵をかける。
ようやくひとりになれた、と息を吐いた瞬間、目の前にひとがいた。
「――!?」
驚きのあまり、思わず噎せ込む。
「だっ、だれ!?」
「いや、こっちのセリフでしょ。おねーさんこそ、だれ?」
よく見ると、そこにいたのは少女だった。それも、とびきり可愛らしい美少女だ。
ふわふわと柔らかそうなマロン色の髪に、目はぱっちりしていて、まるで人形だと言われたほうがしっくりくる。近くの公立中学校のセーラー服を着ているから、中学生だろうか。
ふつうならこの時間は学校にいるはずだけど……。
じっと彼女を見つめたまま考えていると、彼女が不意に瞬きをした。その瞬間、我に返る。
「あ……えっと、私は藤城光香。ここの大学に通ってる大学生だよ」
「ふぅん。私はモモ」
「モモちゃんか。可愛い名前だね」
「でしょ」
「……それでえっと、モモちゃんは中学生だよね?」
おそるおそる訊ねると、モモちゃんは素直にうん、と頷いた。少し安堵して、続けて訊ねる。
「そっか。モモちゃんは、こんなところでなにしてたの?」
「見て分かんない? サボってるの」
やっぱりか、と思いつつ、一応確かめる。
「学校を?」
「うんにゃ、受験を」
「ちょっと待って!?」
※その日は公立高校の受験日だったとさ。