光桃日記、日日是好日


 君は今どこでなにしてるの?
 気が付けば、いつも君のことばかり考えてる
 私ばっかりが想ってるバカみたい
 私、もう君がいないと生きていけないよ

「えっ、なになにめっちゃ素敵じゃないですか! タイトルは!?」←予想外の出来に大興奮のスミィ。

「ふふふっ。タイトルはもちろん、じゃがいも」
「じゃがいも……?」
「じゃがいも」←ドヤ顔。

※タイトルは伏せて刊行します。

「よっしゃーっ!! 原稿できたよ!」
「モモ! すごい! これは傑作だよ!」
「モモ先生! さすがです! これはもう受賞確実ですよ!」
「えっへん!」

 ………………。

 …………。

 ……。

「モモー起きてー。モモー」
「モモ先生!! 頼むから起きてください!!」
「むにゃ……ふふ、傑作や……」
「ダメだ……これはもう起きる気も原稿をやる気もないですね」
「モモ先生……マジでお願いしますよぉ(泣)」

※締切は昨日。


 ***


 別日。

※モモ、原稿が進まず現実逃避中。

(れいちゃん、今日の格好すごく似合ってたな♡)

(たとえるなら優しくてカッコイイ王子さまかな)

(……あ、そういえばこのあいだ実家に帰ったとき、賢一(けんいち)痩せてたな。最近ジム通いしてるとか言ってたっけ)

※賢一はモモのパパ。

(賢一をキャラクターにたとえるなら口だけ達者で実はポンコツな錬金術師とかかなぁ)

 コンコン。

「モモ先生ぇー……そろそろ原稿もらえないとマジで詰むんですけど」←様子を見に来たスミィ。

「あ、ゴブリン」
「ゴブリンッ!?」

※スミィはゴブリン。

 とある休日の昼下がり。

「うーん。やっぱり私はハーフアップがいいなぁ」
「モモは髪が柔らかくてふわふわしてるから、ポニーテールも似合うと思うよ」
「えへへ、やっぱり〜?」

 モモと光香は楽しげにお茶をしていた。

「え、なになに、なんの話ですか? 鷲見も混ぜてください♡」←そこへやってきたスミィ。

※もしかして原稿の調子がいいのかな、と若干期待している。

「あ、スミィ。実はさー、今度スミィのとこの出版社のパーティがあるじゃん?」
「え……いや、あれモモ先生欠席するって言ってましたよね? 私もうそのつもりで処理しちゃいましたよ?」

「そうじゃなくて。もしそこで私に会いたかったべつの出版社の編集さんがスミィを通じて私と繋がったとしてよ? のちのち作品が出版されるってことになってー、その作品が大ヒットして祝賀パーティー開くときがきたら、どんな髪型がいいかなって話」
「へぇー……びっくりするくらいくだらない現実逃避ッスね……」

※それより原稿ください。締切昨日なんですよ……。

「モモ。ちょっとこっちに来なさい」←光香、おこです。

「え〜なに〜? 私今スプラトゥーンやってて忙しいんだけど〜。あとにしてよ」

 ピコピコ。←ゲーム音。

「ダメ!」

 光香、ゲーム機の電源を切る。

「あぁっ! 私のゲームがぁ! なにすんの、れいちゃん!」
「冷蔵庫に入れておいたじゃがいものお漬物がなくなってるんだけど、あんたぜんぶ食べたでしょ! 山盛りあったのに!!」
「…………」
「モモ?」
「や、私じゃないヨ? スミィじゃない?」
「そんなわけないでしょ!」
「分かんないじゃん! 泥棒が入って取ってったのかもしれないよ!」
「モモじゃないの?」
「うん!」
「ほんとに?」
「うん!! ほんとに!」
「分かった。ほんとのこと言わない子にはもう二度とじゃがいも料理作ってあげないか……」
「ごめんなさい私がやりました!!」

(そんなに好きか……)

※モモはじゃがいもを人質にされると激弱になる。

 とある締切日、家。

「モモ先生〜。鷲見が原稿取りに来ましたよ〜!」
「原稿はないのでお帰りくださーい」

 いつものことながら、モモは笑顔で鷲見を追い返す。

「なんでですか!? 原稿締め切りは今日までなんですよ!!」
「れいちゃんとケンカして、私は今それどころじゃないんです」
「えっ、ケンカ!? モモ先生、アンタ光香さんになにしたんですか!」
「なんで当たり前のように私が加害者やねん」
「え、違うんですか?」
「まぁ、そうなんだけどー」
「そうなんかい!」
「うん」
「……まぁ大丈夫ですよ。光香さんは優しいから、ちゃんと謝れば許してくれますって」
「そーかなぁ……」
「そうですそうです。あ、謝るって分かります? 心を込めてごめんなさいって言うんですよ」
「アンタもしかして、私をアホだと思ってる?」
「えっ、違うんですか」
「ちっとオモテ出ろや」

※無事仲直りしました。

 カレンダーを見て。

「あっ、そういえば、もうすぐれいちゃんの誕生日だ」

※七月七日は光香の誕生日。

「じゃあ日頃の感謝を込めてなにかプレゼントしないとですね」←スミィ
「そうだねぇ。なににしよー」

 モモ、ふとテーブルの上にあった菓子折りを見る。

「そういえば、今日スミィが買ってきてくれたこのお菓子ってさぁ、なに?」
「えっ、コレですか? クッキーですけど」

 スミィが買ってきたクッキー
→駅で売られてる限定品
→可愛くラッピングされてる
→光香はクッキーそこそこ好き
→モモはあんまり好きじゃない

「れいちゃんの誕プレコレでいっか!!」
「いやいやいや! ダメに決まってんでしょ! アンタマジで最低ね!」
「やだなーじょーだんだよー笑」←割と本気。
「つか、ひとがあげたものを譲るって、その行為自体も最低ですからね! そういうとこですよ! 分かってます!?」
「分かってるって〜。もう、スミィは冗談が通じないんだからぁ」

(アンタの言動はどこまでが本気でどこからが冗談か分かりにくいんだよ……!)

 ↓続く↓

「プレゼントかぁ〜……外暑いし、買いに行くのめんどいなぁ〜。ねぇスミィ、お金あげるからそれっぽいのなんか買ってきてよ」
「なんでやねん」
「そしたら原稿あげるよ」
「なんてモンを人質にしてんですか!?」


 ***


「買いに行くのが面倒なんだったら、行動でもいいんじゃないですか。いつものお礼に晩御飯を作って振舞ってあげるとか」
「は? そのほうが面倒なんだけど?」←真顔。
「アンタってひとはもう……!!」

※果たして光香の誕生日はどうなる!?

 気を取り直して。

「れいちゃん、誕生日おめでとーっ!」
「わぁ、モモ、ありがとう! 鷲見さんまでわざわざ来ていただいて」
「いえ、モモ先生から光香さんが誕生日だって聞いたので、せっかくだからお祝いしたいなって……」

→本当はモモが変なものプレゼントするんじゃないかと心配だっただけ。

「はい! れいちゃん、これ私からプレゼントだよ!」
「ありがとう! えーなにかなぁ……あっ、ピアスだ! これほしかったやつ〜ありがとう♡」
「えへへ。実はこれ、私とおそろいなんだよーっ」
「じゃあ今度、これつけてどっか旅行でも行こうよ!」
「いいねーっ! 私北海道がいい〜」
「いいね! 海鮮だ!」
「違うよ、じゃがいもだよ〜」

 ラブラブなふたりにスミィは、
(なんか納得いかねー……)

『近頃自立できない若者が増えていると話題になっています。また、本人には自立していないという自覚もなく……』

 何気なくかかっていたテレビを見て、光香は青ざめた。

(これはまずいかもしれない)

「モモ、今日から家事の分担をしようと思う」
「えっ、なんで!?」
「私も働いてて遅くなるときもあるし、今の生活は正直アンフェアでしょ? (ここはモモの自立心を養うためにも、心を鬼にしなきゃ!)」
「やだよ、めんどくさい」
「めんどくさくないよ。はい、まずはお昼の準備ね。じゃがいもの皮むきから……」
「うーい」

 そして。

「ぎゃあ! 指切ったぁ!」
「モモ!?」

 流血。

「ごめん、モモには野菜を洗ってもらうことにしようかな」
「なんかトゲみたいなの刺さったぁー!!」
「モモッ!」

 流血。

「モモ! なんで牡蠣揚げてるの!?」

 ※しかも殻ごと。

「え、料理とか知らんし、揚げればなんでも美味しくなるかなって」
「…………」

 ※光香が用意した牡蠣は生食用でした。


 ***


 結果。

「モモは大人しくしてて。ご飯は私が作るからね」
「お願いしまぁす」

 ※モモは基本、なにごとも戦力外。