玲望はボゥルからおたまでツユをすくって、深い器に入れた。

 これにそうめんを浸して食べるのだ。

 テーブルにはほかに、そうめんに入れる薬味がいくつか並んでいた。

 定番のネギのほかに、シソや生姜なんかもある。

 どれにするか悩んでしまいそうだ。

 ほかにはちょっとしたおかず、鶏と根菜の煮物やおひたしなんかが並んでいる。

 完璧な『手料理の夕ご飯』だった。

「いただきまーす」

 大きな皿に盛られたそうめんをすくう。

 麺類は茹でてしばらくするとくっついてしまうのだけど、そんなことはなく、すっと箸ですくえてしまった。

 店で出されているものをすくう感触と同じである。

 家で食べるときはくっついてしまっていて、剥がすのに苦労するのに。

 そういうところも食べやすく作っているのだろう。

 やはりどうやっているのか瑞希は知らないけれど。

 玲望の細やかさはこういうところにも発揮されているらしい。

 しかし玲望は当たり前のように、「いただきます」と自分でも箸を取ってそうめんをすくった。

 そうめんには何本か、色のついたものが入っている。

 ピンクとか、青とか。

 子供の頃からそれを取るのがなんとなく嬉しかったものだ。

 味は変わらないのに。

 瑞希が狙ってピンク色の麺のところを取ったからだろう。

 玲望は何故か笑った。

「やっぱそこからいくのか」

 取ったそうめんをツユの皿に入れながら、どうして笑われたのかよくわからなかったので「なんでだよ」と瑞希は聞いてしまった。

「や、かわいいなと思って」

「は?」

 ピンク色の麺を取っただけで、どうしてかわいいなと言われるのだろうか。

 不本意な気持ちが声に出たのだけど、玲望はむしろもっとおかしい、という声で理由を言ってくれる。

「実家の弟や妹がそうだからさ。色のついた麺を誰が取るかとかでいつも騒ぎになる」

 理由はわかった、けれどそれにはちょっと恥ずかしくなってしまった。

 子供っぽいと思われたということだ。