サンタクロースは伝説の人物だ。赤い服を着て白い髯を生やし、老人の姿をしていることが多い。
 また良い子と悪い子を見抜くことができる能力を持っている。

 クリスマスの夜、良い子にはプレゼントを持ってきてくれるらしいが、あいにく俺はもらったことがない。
 昔は素行が悪かったからだろうか。でも一番の問題は……家族がいなかったことだろう。

 なんでかって? それはまあ、そういうことだ。

 で、それもあって俺はクリスマスがずっと好きじゃなかった。
 でもこの時期になると嫌でも目に入る。

 イルミネーションや家族の笑顔、スーパーへ行けばクリスマスケーキや七面鳥が並んでいる。

 誕生日も一人だった。

 でも――。

『キュウ!』
『おもち、君はおもちだ!』

 おもちと出会ってからすべてが変わった。

 誰かといることが当たり前になった。
 自然と笑顔が増えていた。

『じゃあこれからみんなで頑張ろうね』御崎がアシスタントに来てくれた。

『ボクは悪いファイアスライムじゃないよー!』

 田所と出会って。

『私もみんなと仲良くしたい』
『はいでちゅ! ご主人ちゃま!』
『恐悦至極に存じます』
『がうう!』

 雨流、ドラちゃん、佐藤さん、グミ。

 だから今の俺は心から胸を張っていえる。

 ――クリスマスが、好きだ!

「――プレゼントはい”ら”ね”えがあああ!!!!!!!」

 いやでもやっぱり、このデカイサンタは好きじゃないんだが!?

 “問答無用で踏みつぶそうとしてきてわろた”
 “このサンタ、こえええ”
 “いったい何の恨みが”
 “デスをプレゼント?”
 “アトリたちでも苦労しそう”
 “無理しないでね!”

 サンタは白い袋を抱えている。
 突然ごそごそと何かを取り出す。

 その手には――手りゅう弾!?

「――プレゼントはい”ら”ね”えがあああ!!!!!!!」

「田所は御崎を! おもちは破片をブレスではじき返してくれ! 雨流は自分を守ってくれ!! グミ、なんとか俺を助けて!」

 “的確な指示だけど最後おもろい”
 “お”れ”を”た”す”け”ろ”!!”
 “これはリーダーの素質”

 俺の指示通りに全員が動く。
 ちなみにグミは水の壁を出してくれた。

 直後、手りゅう弾が爆発する。破片が飛び散り、壁にぶち当たると轟音が響いた。
 地面にもちらばっているが、一つ一つがかなり大きい。

 サンタ(こいつ)、ちょっと強すぎないか!?

「――ピイイイイイイイイイ」

 しかしそこでおもちが炎のブレスを放った。
 サンタが攻撃に気づくも余裕の笑みを見せる。

「ふぉふぉふぉふぉっ」

 またもや白い袋からごそごそ。
 次に取り出したのは赤いマントだ。

 なんとそれを使って炎のブレスを――ひらりと反らした。

 “闘牛サンタ!?”
 “おもちのブレスを避けるってすごいぞ”
 “こりゃやべえダンジョンだわ”

 しかし雨流はいたって冷静だった。流石S級だ。

「あーくん、どーする? 私が攻撃する?」
「そうだな。けどあの袋から何されるかわからない。一斉で攻撃するぞ!」

 次の攻撃を待たずに、おもちは炎のブレスを放った。
 雨流は手を翳し、御崎が動かしてあげる(サイコキネシス)を発動。
 そしてグミの水弾(ウォーターバレッド)

 攻撃を受けたサンタは足を折りたたみ、つらそうにする。

「――悪い子、悪い子があ”あ”あ”あ”!!!!!!!」

 “怖いサンタさん”
 “セナちゃんの攻撃を耐えている!?”
 “凄い”

「田所、行くぞ!」
「まかせてーっ!」

 俺がまっすぐ駆けると田所が剣になってくれた。
 猛攻撃のおかげでサンタはきつそうだ。このまま一撃を与えて倒す。

「――プレゼントはい”ら”ね”えがあああ!!!!!!!」

 わりぃなサンタさん。今の俺はクリスマスが好きだ。

 でも、みんなのために倒すぜ!

「――じゃあな!」

 俺はサンタに一撃を与えた。だがなぜか手ごたえがない。
 な、なぜだ!?

 そのままはじき返されると、次の瞬間、サンタが小さくなっていく。

 “やっつけたか!?”
 “ちぢんでいく”
 “さすが!”

 それでもまだ警戒していたら次の瞬間サンタの姿が消えていた。
 慌てて回りを見渡すと、なんと雨流の前に移動していた。

「――いいごか? わるいごが?」
「え? いい子だよー」
「――ふむ、ほうがほうが」

 “会話してる!?”
 “ちゃんと対応しててワロタ”
 “どういうこと!?”

 するとサンタはまたもや白い袋をごそごそ。
 攻撃かと思ったら、今度はなんと――おもちそっくりのぬいぐるみを手渡した。

「え、くれるの!? わーい! サンタさん、ありがとう!」
「んむんむ、おまえら、いいごが?」

 次は御崎だった。
 困惑しながらも答える。

「は、はい」
「あげる、あげる」
「え、え、こ、これは! 幻の日本酒、膝の乾杯!?」

 “対応力がレベチ”
 “酒w”
 “膝の乾杯ってなにw”
 “なんで急に優しくなったんだ?”

 続いておもち。

「キュウキュウ!」

 何と全国うどん食べ比べセットだ。美味しそう。
 田所はなぜか手で持てるマッサージガンだった。意外と身体が凝ってるのか?
 グミはデカイ水鉄砲だった。なくても撃てるくない!?

「――良い子か? 悪い子か?」

 最後は俺だ。俺は決して良い子ではなかった。
 昔は悪いこともしたし、サンタなんてきたことがない。

 でも今は……それなりに、いい子でいれてるんじゃないだろうか。

「……いい子だ」
「んむっ」

 するとサンタは、三メートルほどのもみの木を出してくれた。
 デカすぎて笑ってしまったが、まさに俺が欲しいものだった。

「――ではまたのおおおおおおおお」

 満足したのか、さっきの自動ソリがやってきて、サンタは空高く消えていく。
 あのソリ、サンタのだったのか。

 “さよならサンタ”
 “何で急に優しくなったんだ?”
 “あれが負けたってことじゃないの?”
 “ダメージを受けた結果、敗北を認めたってことか”

 俺は、そびえたつもみの木を眺めていた。
 そこにおもちが下りてくる。

「キュウー!」
「お疲れ様。ま、なんにせよこれで倒したってことか?」
「ダンジョンはまだまだわからないことだらけだしね。でも、これでいいんじゃない? 目当てのものも手に入ったし。日本酒も早く飲みたいし」
「めちゃくちゃ飲みたそうだな」

 とはいえまさにその通りだ。
 田所が、剣から元の姿に戻っていく。

「みんなっ、おつかれー!」
「がうがう!」
「おもち抱き枕もちもち! うれしいー!」

 “みんな無事でよかった”
 “いいねえ、お疲れ様”
 “無事でよかった”

 何はともあれ目的達成だ。
 むしろ完璧。

「さて、帰ったらみんなでクリスマスパーティーだ!」

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