おもちや田所と言った例外もあるが、基本的に魔物はデカければデカイほど強い。
 理由は魔力総量が多いからだ。
 これはゲームでいうところの戦闘力みたいなもので、攻撃力、防御力、耐久力などが高いことを示す。
 
 難しい話じゃない。人間だって身体のデカいほうが強い。格闘技も体重でクラスが分けられている。
 
 そして目の前に現れた初めての魔物、雪の形をしたダルマ魔物はとんでもなくデカかった。

 ダンジョン内部は摩訶不思議で外から見るよりも内部が広い。
 ドラえもんのポケットみたいな感じだろう。わからんけど。

 雪ダルマの大きさはビル三階くらいだろうか。子供が遊びで作りましたみたいな感じの風貌で、頭にはバケツ、手は木の枝で出来ている。
 
 グルメダンジョンもそうだが、誰かの妄想で作られてるんじゃないのか?

 “で、でけええ”
 “一階層でこのレベルの魔物が出るのか”
 “このダンジョン、想像よりやばそう”

 コメントの通り悠長な事は言ってられない。
 リーダーとしてやるべきことをやる。

 いや、おそらくリーダーとしてやるべきことをだ。

「おもちは空高くに展開して炎のブレス。田所は何があってもいいように警戒。グミは雨流を乗せて後方へ! 御崎は全員のサポートを! ――俺は、前に出る!」
 
 既におもちの炎を身体で受け止めて“充填”は済んでいる。
 炎を貯蓄し、それを爆発させることで俺の移動速度は、鬼速いッッ!

 “アトリがいつにもなくカッコイイ”
 “これが、りぃだあぁの統率力!?”
 “ポッ”
 “素敵な主”

 雪ダルマから予想される攻撃は二つ。

 物理による打撃。もしくは雪を投げてくる遠距離攻撃だ。

 ――ふっ、いつのまにか俺も成長しているんだな。

 だが雨流は一歩も動いていなかった。
 右手を翳して、そして――下げる。

「バイバイ」

 次の瞬間、雪ダルマは太陽に曝されたかのようにぺっちゃんこになった。

 ……え?

 “ワロタww”
 “雪ダルマ、何もできずに終了”
 “僕でなきゃ見逃しちゃうね”
 “これセナちゃんがいたらボスまでクリアできちゃうんじゃね?”
 “アトリのかっこいいところは大きな声をあげるとこでした”
 “うーん素晴らしいオチ”
 “配信としてのオチが百点”

「さっすがセナちゃん!」
「えへへ、えらいー?」
「うん、偉いわあ」

 御崎が頭をなでなで。
 おもち、田所、グミも大喜びだ。

「僕の出番……」

 “アトリ恰好良かったよ。声は”
 “確かに、リーダー感はあった”
 “見どころはあったぜ”

 まあ仲間頼もしいのは良いことだ。
 悲観的になる必要はない。

 何も……。

 “主泣いてる”
 “背中が寂しい”
 “おもちが!”

「キュウキュウ」
「おもち……」

 するとおもちが、俺の肩をトンっと叩いてくれた。
 そうか。おもちはわかってくれている。公園でテイムしたあの日から俺たちは親友(マブ)。いや、家族。

 こうやって慰めてくれるなんて優しい。

「ご主人様、早く前に進もうーだって!」

 すると田所が叫んだ。ダンジョンに入ると喋れるようになる上、翻訳してくれるのだ。
 でも、今のは聞きたくなかった。

 頑張れ俺、負けるなアトリ!

「よ、よしいくぞ! フォーメンションおもちだ!」

 “なんか名前できてるw”
 “アトリのリーダーへの執念、嫌いじゃない”
 “心配しなくてもみんな主が好きだよ”
 “間違いない。主がいないと誰もいないからね”
 “存在しているだけで安心できるから”
 “アトリマンがいるだけで俺たちは幸せさ”

 みんな優しい。
 ふたたび雪ダルマが出てきたが、今度はおもちが炎のブレスで蒸発させる。

 その次は田所のファイアタック。

 そのまた次はグミのウォーターバレッド。
 水攻撃なのでダメージはないと思っていたが、雪は水で固まるらしく、カチカチになっていた。

 “無敵の軍団”
 “これが、チームの力”
 “何気に新ダンジョンを見れるって日本発じゃね?”

 しかしやっぱり俺は少しだけ目立ちたかったので次こそはと宣言した。

「任せてくれ。俺もリーダーとして、いや仲間として力になりたいんだ。決して目立ちたいわけじゃない信じてくれ」
「キュウ!」

 おもちも応援してくれているらしい。田所が「違うよ。早く行こう――」と通訳しそうになったので口を抑えた。

 雪ダルマは俺が倒す!
 
 と思っていたら、次に現れた魔物は――。

「な、なんだこのシカ!?」

 “雪ダルマより小さいが、それでもデカイな”
 “クマの二倍くらい?”
 “アトリ、いけるのか!?”

 シカの魔物だった。頭に2本の角があるが、魔力がみなぎっているらしく光っている。
 突き刺されたらお腹に穴が開きそうだ。

 ちらりと横目で後ろを見る。

 雨流と御崎が応援してくれていた。

「がんばれ、あーくん!」
「交代っていったら、すぐ交代するわよー」

 うーん緊張感の欠片もない。
 いや、俺を信頼してくれているのだろう。

 男阿鳥、ここは頑張らねばならぬ。

「さあ、かかってこいシカ!」
「――ギャース」

 するとシカは聞いたこともない鳴き声を発した。お、おそろしい。
 突然、後ろ足を何度も地面にこすりつける。

 これ、突進してくる感じだな。

 攻撃は見切ったぜ。

 ん、てか俺って一人で戦えたっけ?

 ……あれ?

「た、田所!」
「呼んだ―?」
「は、はやく田所剣に!」
「変化するの?」
「そ、そうだ急いで!」

 “自分の戦闘スタイルを忘れていた模様”
 “高速で動けるけど魔法を放つとかはできないんだっけ”
 “田所もアトリの武器の一つ”

 直後、シカの魔物が向かってきた。

 だが後ろから田所が俺の手に覆いかぶり、みるみる炎の剣に変化していく。

 ぶ、ぶつかる――。

「ヒヒ――ン!?」
「あ、あぶねえ……サンキュな、田所」
「いいよー!」

 メラメラと燃え上がる田所剣。間一髪のところで角を受け止めた。
 そのままはじき返して真っ二つ。
 
 驚いたのは血も何もでなかったことだ。普通は血が飛び散るのだが、魔力の欠片となり離散していった。

「よっしゃあ! これが、アトリリーダーの力だ!」
「田所、すごーい!」
「ほんと、たどちゃんは凄いわああ」
「キュウキュウ!」
「がうがう!」

 “主、俺たちは味方だ”
 “田所剣を扱えるのはアトリだけだからな”
 “勇者だって聖剣を扱えるが、凄いのは本人だろう?”
 “安心しろ。俺たちは見ているぞ”

 俺をたたえてくれるコメント。
 うん、やっぱり配信って最高だな。

 涙をふきそうになっていると――。

「アトリ、無理しないで。ちゃんと頑張ってるところみてるから。ほら行くわよ」

 御崎が通りすがりにボソッと声をかけてくれた。
 配信には聞こえない程度に。

 な、なんていいやつなんだ……。

「よし、次は二階層だ! もみの木よりも命を大事にいくぞみんな!」
「はーい! あーくん!」
「もみの木は忘れてないのね。ま、そうしましょう」
「キュウ」
「ぷいにゅ」
「がう!」

 リーダーとしてやるべきことは戦うことじゃない。
 みんなを無事に返すことだ。
 
 それさえ守れればそれでいい。

 でも、目立てたのはちょっと嬉しかった。
 
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