前回までのフェニックス。

 クリスマスが近いのにツリーがない。
 既製品はヤダヤダ、本物のもみの木がいいとダダをこねる俺こと阿鳥。
 雨流から新クリスマスダンジョンが現れたと聞く。
 みんなでいってタダでツリーをゲットしよう←イマココ。


「すげえ……クリスマスダンジョンってか、もはやツリーまんまじゃねえか」

 翌日、雨流の快適リムジンで輸送してもらって新ダンジョンに来ていた。
 驚いたのはその造形だ。

 なんとクリスマスツリー、つまりもみの木の形のダンジョンがそびえたっている。
 木で出来てはいないが、初めて見る光景に声を漏らす。

 思えば久しぶりのダンジョンだ。たとえ雨流や佐藤さんがいても油断はできない。
 リーダーとしてみんなを先導しよう。ちなみに自称だ。

 まずはみんなに声をかけよう。緊張しているだろうしな。

「みんな、装備の再確認だ!」
「セナちゃん、この服動きやすいわあ。伸縮性もあってばっちりね」
「ダンジョンで手に入れた新素材で作ったらしいー!」

 後ろを振り返ると御崎がピチピチのスウェットに着替えていた。
 え、えろ――いや何でもない。
 雨流はいつも通りゴスロリ風だ。今日はシックな黒色。

 そして我らの頼りになる真のリーダー、佐藤おじちゃまは――、あれダンディなおじちゃまがいない!?

「佐藤さんは!? さっきまでリムジン運転してくれてたよね!?」
「かえったー」
「え、なんで!?」
「知らなーい」

 し、知らなーい!?
 雨流のテンションに思わず引っ張られそうになる。
 そこで御崎が補足してくれた。

「『何かあったとき、いつでも駆け付けられるように私は待機しておいます。セナ様がいれば問題はないと思いますが、レスキュー係も必要だと思うので』って、言ってたわよ」
「ま、まじかよ……」

 まさか佐藤おじちゃまがいないだなんて……。
 とはいえ確かに佐藤さんが待機してくれているのは安心だ。全員で罠にかかってしまい閉じ込められた、なんて可能性もあるわけだしな。

「キュウキュウ」
「ぷいにゅ」
「がぅ!」

 するとサンタ帽子をかぶったおもち、赤いマフラーを巻いた田所、白髭をつけたグミが俺を励ましてくれた。
 僕たちもいるよ、ってことか。

「そうだな。俺にはお前たちがいるもんな。弱気になってたよごめんな。って、コスプレ!?」
「みんなかわいいー!」

 雨流がキャッキャッと声をあげながらグミの背中に乗る。おもちが飛び、田所がその場でぴょんぴょんした。

 僕たちはこれから生死を賭けた新ダンジョンへ行きます。
 アトラクションじゃないからね!?

「ま、いいんじゃない。リラックスしてるほうが対処できるはずよ」
「まあそうかもだけど、リラックスってレベル越えてないか?」
「やるときはやる子たちだし、それは阿鳥もわかってるでしょ」

 御崎の言う通り、確かに全員本気を出すと凄い。
 どれぐらい凄いかっていうと、俺ってこのパーティにいる? みたいなレベルだ。

 そして今日も配信予定。俺の活躍がなくなってしまうと配信者としての立場がなくなってしまう。

 うん、これくらいでいいな。

「よし、まったりのんびり、俺の出番もあるぐらいの感じで頼むぜ」
「見栄がすすけてるわよ」

  ◇

 “待ってましたー!”
 “クリスマスダンジョン配信!?”
 “こんばんちゃー”
 “今日はセナちゃんもいるんだ。安心だね”
 “この面子の安心感凄い”
 “おもち、おもちぃおもちぃ!”
 “田所、グミ、セナ、ミサキ!”
 “凄い雪景色”

 ダンジョン内部はコメントの通り雪が積もっていた。
 さすがのクリスマスダンジョン。

 一応森みたいだが木々が真っ白でわかりづらい。
 てか、俺の名前一切なし!?

 “主、頑張ってくれ”

 いや、違った。俺のファンもいた!

 “炎耐性で何かできるのかな? このダンジョン”

 ……あ。

「キュウ!」
「おもち、寒くないの?」
「キュウキュウ!」
「おもちは強いねえ!」

 “おもち×セナちゃん萌えからの燃え”
 “おもちが歩くと雪が解けてるw”

「さむーい! さむいよー!」

 “誰かと思ったら田所”
 “ダンジョンでは喋れるんだっけかw”

「てか、マジで寒いな。御崎大丈夫――え、なにそのジャケット」
「何があってもいいようにね。阿鳥、寒いんじゃないの? Tシャツだけ?」
「あ、はい」

 今までの事を考えると、極寒で凍えて凍結すれば耐性を習得できるかもしれない。
 でも、そんなことはできない。

 どうしようと思っていたら、御崎がコートをかけてくれた。

「お、あったけえ。どうしたんだこれ」
「こんなこともあろうかとね」

 “御崎ちゃん優しい”
 “これが、パートナー!?”
 “イチャイチャ”
 “イイハナシダナー”

 御崎はきついところもあるが凄くいいやつだ。
 より一層気合が入る。

 ここは新ダンジョン。
 目的は視察ともみの木のゲット。

 一応無理せずに行けるところまでと頼まれている。
 大体三層ぐらいまでいけば何となく傾向がわかってダンジョンレベルが把握できるそうだ。

 最近はドローンで潜って調べることもあるそうな。

 色々と時代は進んでるんだなあ。

「がうがう」
「お、雪でちょっとデカくなったなグミ」

 ふと視線を落とすとグミが小型犬から大型犬ぐらいになっていた。
 水を吸うとデカくなるのだが、雪だとこのくらいなのか。

 それでも頼もしい。いつもは水っぽいが今は白っぽい。かわいい。

「さっそく前に進むか。おもち、悪いが雪を解かすように先を歩いてくれるか」
「キュウ!」

 おもちは任せてと羽を動かし、先頭で歩き出す。
 しかし突然振り返り、綺麗な行進を刻む。
 その手には、いつのまにか『クリスマスダンジョンツアー』と書かれた旗を持っていた。

「キュッキュッ!」
「みんな、おもちに続くぞー♪」
「ついていくっー!」
「がうがう」

 おもち、雨流、田所、グミと続く。

 “いつのまに用意したんだwww”
 “ピッピー! いや、キュッキュー!”
 “旅行会社かな?”
 “それではこちら、新ダンジョンでございます。危険ですのではぐれないように”
 “いや怖すぎな”

 さすがにリラックスしすぎでは!?

「ほら阿鳥、大丈夫よ。私も見てるから」
「お、おう。そうだな」

 まあ俺たちらしいっちゃらしいか。

 と、思っていたまさにそのとき。

 巨大な雪ダルマが、いや雪ダルマの魔物が目の前に姿を現した。

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