「大変お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ないいいいいいいいいい!」
俺とおもちが風呂から上がった後、ミリアが日本の伝統的な謝罪と何かを掛け合わせたスライディング土下座をしてきた。
流石に慌てて顔を上げさせるが、雨流《妹》は後ろで頭にどでかいタンコブを抑えている。
間違いなく怒られたんだろうが、何だかんだで仲良いのだろう。
とはいえ、姉妹喧嘩に巻き込まれるのは勘弁してもらいたい。
後、佐藤さんが可哀想。
「まあまあ、別に俺たちはそこまで思ってないよ。すげえつまんねえことで喧嘩してたなって思ったくらいだよ」
「は、はい! 度々申し訳ございません!」
しかし再び頭をガンガン打ち付けるような勢いで土下座するミリア。
隣で申し訳なさそうにする雨流。
なぜか俺が悪いみたいな顔をする御崎。目を瞑って一連のやり取りを真摯に受け止めている佐藤さん。
何この状況!?
「キュウ?」
それから少し話してみたが、ミリアは想像以上に常識人だった。
ネットではヤバイと騒がれていたが、どうみてもそうは思えない。
やはりネットなんてあてにならないもんだ。
だが雨流を連れ戻しにきたのは本当だった。とはいえ、その本当の理由はプリンを食べたからではなかった。
「雨流が狙われてる?」
「最近、能力《スキル》を奪われたっていう事件が起きてるのよ。わかっていることは、そいつらが組織で動いてるとだけ。いくら強くてもセナはまだ子供だから」
能力を奪う組織……、それだけ聞いてもかなりやばそうだ。
いま俺がおもちをテイム出来ているのは、炎耐性(極)のおかげでもある。もしスキルを奪われたりしたら、おもちの熱波で近寄ることが出来なくなるし、炎中和もできなくなれば探索者委員会に危険とみなされて捕まってしまう。
もちろん、それは田所もグミも同じかもしれない。
「お姉ちゃん、私そんな奴らに負けないもん!」
「セナ、わがままいわないの。それにあなたもいい加減もっちゃんを探すのをやめなさい」
「違う……もっちゃんは今もどこかで生きてる。だから、私は探し出すまで諦めない」
「はあ、そのためにS級になるなんて……」
「いいもん……」
雨流は、悲し気な表情を浮かべておもちをぎゅっと抱きしめる。
そうだったのか。ずっと疑問だった。なぜ雨流がS級で、更に危険なダンジョン巡りをしているのか。
「もしかして雨流《おまえ》、ダンジョンでもっちゃんを探してるのか?」
「……うん、もっちゃんとまた一緒にいたいから
ミリアが呆れて声を漏らす。佐藤さんは悲し気な表情を浮かべていた。
だがこれで全て合点がいった。
通りで死のダンジョンとか危険な任務の為にわざわざ帰国するわけだ。
そして佐藤さんが文句も言わずに雨流に付いて行くも、全てはもっちゃんの為ということか。
おもちと似ているということは、同じ伝説級である可能性は高い。
確かにそうなるとS級でしか入れないダンジョンにいるかもしれないだろう。
「なので山城さん――」
「呼び捨てでいいぜ、阿鳥でもいい」
「……山城、私はセナを自国《パリ》まで連れて帰ります。それで金輪際、ここには近寄らないようにさせます」
ミリアの言う事は正しい。
そんな危険な組織に狙われていると考えると日本にいるのは危険だ。
「佐藤、セナを」
「……はっ」
「いや! もっちゃんとは日本《ここ》で出会ったの! おもちがいるってことは、絶対どこかのダンジョンにいるはず!」
「わがままいわないの!」
だが――。
「ミリア、とりあえずミルクを飲んでみないか?」
「何の話ですか?」
「最高なんだよ、御崎、冷蔵庫から取ってくれ」
「え? わ、わかった」
御崎はわけもわからず冷蔵庫から取り出す。ミリアも眉をひそめていた。
「ほら、飲んでくれよ」
「……ミルクなんてフランスでもありますけど」
「いいから」
そしてミリアはコップに注がれたミルクに口をつける。
するとその表情がやがて驚きと笑顔に変わっていく。
「美味しい……」
「俺の庭にダンジョンが出来たんだが、そこで飼ってるミニウシのミルクだ。初めは搾乳するのも一苦労だったが、今はプロ級だぜ」
「それが……いま何の関係があるんですか」
「このミニウシを譲ってもらえたのは雨流のおかげなんだ」
「セナの……?」
「ああ、雨流が窃盗団を止めてくれたおかげで大勢が助かった。確かに雨流は子供だが、ミリア、君が思ってるより彼女は強いよ。それに俺だって力になる。だからもう少し願いを聞いてやってくれないか」
俺は頭を下げた。普通に考えればミリアの言う事が正しいだろう。
誰だって家族に危険が及ぶことを考えたら安全な所に移動してほしいはずだ。
でも、雨流だってそれはわかってる。
危険でも、それでも……会いたいんだ。
俺だっておもちがいなくなったらどれだけ危険でも探したくなるだろう。
その気持ちはよくわかる。
「私からもお願いするわ、ミリアさん」
そして御崎も同じように頭を下げてくれた。
「ミリア様、私からもお願いします」
「佐藤、あなたまで――」
「私はお傍でセナ様を見てきました。たしかにまだ不安なところはありますが、山城様と出会って変わりました。どうかお願いを聞いてあげてくれませんか」
「…………」
そして――。
「お姉ちゃん、お願い……私、もっちゃんに会いたいの」
雨流も、頭を下げた。
「……ああもう! ……わかった。わかりました。みんな頭を上げて! 私が悪者みたいじゃない!」
「……ありがとな、ミリア」
「まったく、とんだお人よしですね」
「キュウキュウ!」
「ぷいにゅ!」
「がう!」
おもち達が、ミリアに頭を擦りつける。話を分かっていたとは思えないが、それでも雰囲気で察したのだろう。
「ちょ、ちょっとなにくすぐったいわ。あはは、やめなさい」
「ありがとうってさ」
「ふふふ、こそばったいわ。――でも山城、本当に気を付けてください。組織の名前は一切わかってないし、何人いるのかもすらわかっていません。知っているのは、能力を奪われた人がいるという事実だけなんです」
ミリアの表情は真剣そのものだ。俺も思わず拳を握った。
「ああわかった。雨流に何かあったら俺が絶対守るよ」
「その言葉、信用させていただきます」
◇
「組織について何かわかったらすぐに知らせます。それに山城、今度うちの家にきませんか?」
「家? ああ、お礼にってことか」
するとミリアは、頬を赤くさせた。
「違います。あなたの真剣な表情、そしてその顔――私タイプなんです」
「へ? た、タイプ!?」
「また改めてお誘いします。それでは――」
黒塗りのリムジンは発進、ちなみに佐藤さんも帰って行く。
タイプって……まさかそんな……。
嵐のように現れ、嵐のように去って行く。
想像していたのと違って妹想いな奴《ミリア》だったが。
「鼻の下伸びてるわよ」
俺に突っ込みを入れてくる御崎。
伸びてないよ、伸びてませんけど!
「じゃあ、帰ろうっかー! おもち、田所、ぐーみ♪」
雨流は、おもちたちと手を繋いで家に戻ろうとする。
いや、確かに自国に戻るのは止めたが、家には帰っても良かったんだが、泊まっていきたいらしい。
「あのくらい啖呵切ったんだから、今日ぐらいはいいんじゃないの」
御崎は俺の表情で全てを理解している。まあ、それもそうか。
「しょうがないな。じゃあ御崎、また明日――」
「私も泊まる。セナちゃんとベッド使うから、阿鳥は床で寝てね」
「ここ俺の家なんだけど……」
「一応、登記では会社の事務所だから」
「いつのまに……」
ミニグルメダンジョン、魔石収集、謎の過激組織、もっちゃん探し――か。
「ま、スローライフばっかりじゃ飽きるもんな」
危険でやることも増えていくが、なぜか俺の頬は緩むのであった。
俺とおもちが風呂から上がった後、ミリアが日本の伝統的な謝罪と何かを掛け合わせたスライディング土下座をしてきた。
流石に慌てて顔を上げさせるが、雨流《妹》は後ろで頭にどでかいタンコブを抑えている。
間違いなく怒られたんだろうが、何だかんだで仲良いのだろう。
とはいえ、姉妹喧嘩に巻き込まれるのは勘弁してもらいたい。
後、佐藤さんが可哀想。
「まあまあ、別に俺たちはそこまで思ってないよ。すげえつまんねえことで喧嘩してたなって思ったくらいだよ」
「は、はい! 度々申し訳ございません!」
しかし再び頭をガンガン打ち付けるような勢いで土下座するミリア。
隣で申し訳なさそうにする雨流。
なぜか俺が悪いみたいな顔をする御崎。目を瞑って一連のやり取りを真摯に受け止めている佐藤さん。
何この状況!?
「キュウ?」
それから少し話してみたが、ミリアは想像以上に常識人だった。
ネットではヤバイと騒がれていたが、どうみてもそうは思えない。
やはりネットなんてあてにならないもんだ。
だが雨流を連れ戻しにきたのは本当だった。とはいえ、その本当の理由はプリンを食べたからではなかった。
「雨流が狙われてる?」
「最近、能力《スキル》を奪われたっていう事件が起きてるのよ。わかっていることは、そいつらが組織で動いてるとだけ。いくら強くてもセナはまだ子供だから」
能力を奪う組織……、それだけ聞いてもかなりやばそうだ。
いま俺がおもちをテイム出来ているのは、炎耐性(極)のおかげでもある。もしスキルを奪われたりしたら、おもちの熱波で近寄ることが出来なくなるし、炎中和もできなくなれば探索者委員会に危険とみなされて捕まってしまう。
もちろん、それは田所もグミも同じかもしれない。
「お姉ちゃん、私そんな奴らに負けないもん!」
「セナ、わがままいわないの。それにあなたもいい加減もっちゃんを探すのをやめなさい」
「違う……もっちゃんは今もどこかで生きてる。だから、私は探し出すまで諦めない」
「はあ、そのためにS級になるなんて……」
「いいもん……」
雨流は、悲し気な表情を浮かべておもちをぎゅっと抱きしめる。
そうだったのか。ずっと疑問だった。なぜ雨流がS級で、更に危険なダンジョン巡りをしているのか。
「もしかして雨流《おまえ》、ダンジョンでもっちゃんを探してるのか?」
「……うん、もっちゃんとまた一緒にいたいから
ミリアが呆れて声を漏らす。佐藤さんは悲し気な表情を浮かべていた。
だがこれで全て合点がいった。
通りで死のダンジョンとか危険な任務の為にわざわざ帰国するわけだ。
そして佐藤さんが文句も言わずに雨流に付いて行くも、全てはもっちゃんの為ということか。
おもちと似ているということは、同じ伝説級である可能性は高い。
確かにそうなるとS級でしか入れないダンジョンにいるかもしれないだろう。
「なので山城さん――」
「呼び捨てでいいぜ、阿鳥でもいい」
「……山城、私はセナを自国《パリ》まで連れて帰ります。それで金輪際、ここには近寄らないようにさせます」
ミリアの言う事は正しい。
そんな危険な組織に狙われていると考えると日本にいるのは危険だ。
「佐藤、セナを」
「……はっ」
「いや! もっちゃんとは日本《ここ》で出会ったの! おもちがいるってことは、絶対どこかのダンジョンにいるはず!」
「わがままいわないの!」
だが――。
「ミリア、とりあえずミルクを飲んでみないか?」
「何の話ですか?」
「最高なんだよ、御崎、冷蔵庫から取ってくれ」
「え? わ、わかった」
御崎はわけもわからず冷蔵庫から取り出す。ミリアも眉をひそめていた。
「ほら、飲んでくれよ」
「……ミルクなんてフランスでもありますけど」
「いいから」
そしてミリアはコップに注がれたミルクに口をつける。
するとその表情がやがて驚きと笑顔に変わっていく。
「美味しい……」
「俺の庭にダンジョンが出来たんだが、そこで飼ってるミニウシのミルクだ。初めは搾乳するのも一苦労だったが、今はプロ級だぜ」
「それが……いま何の関係があるんですか」
「このミニウシを譲ってもらえたのは雨流のおかげなんだ」
「セナの……?」
「ああ、雨流が窃盗団を止めてくれたおかげで大勢が助かった。確かに雨流は子供だが、ミリア、君が思ってるより彼女は強いよ。それに俺だって力になる。だからもう少し願いを聞いてやってくれないか」
俺は頭を下げた。普通に考えればミリアの言う事が正しいだろう。
誰だって家族に危険が及ぶことを考えたら安全な所に移動してほしいはずだ。
でも、雨流だってそれはわかってる。
危険でも、それでも……会いたいんだ。
俺だっておもちがいなくなったらどれだけ危険でも探したくなるだろう。
その気持ちはよくわかる。
「私からもお願いするわ、ミリアさん」
そして御崎も同じように頭を下げてくれた。
「ミリア様、私からもお願いします」
「佐藤、あなたまで――」
「私はお傍でセナ様を見てきました。たしかにまだ不安なところはありますが、山城様と出会って変わりました。どうかお願いを聞いてあげてくれませんか」
「…………」
そして――。
「お姉ちゃん、お願い……私、もっちゃんに会いたいの」
雨流も、頭を下げた。
「……ああもう! ……わかった。わかりました。みんな頭を上げて! 私が悪者みたいじゃない!」
「……ありがとな、ミリア」
「まったく、とんだお人よしですね」
「キュウキュウ!」
「ぷいにゅ!」
「がう!」
おもち達が、ミリアに頭を擦りつける。話を分かっていたとは思えないが、それでも雰囲気で察したのだろう。
「ちょ、ちょっとなにくすぐったいわ。あはは、やめなさい」
「ありがとうってさ」
「ふふふ、こそばったいわ。――でも山城、本当に気を付けてください。組織の名前は一切わかってないし、何人いるのかもすらわかっていません。知っているのは、能力を奪われた人がいるという事実だけなんです」
ミリアの表情は真剣そのものだ。俺も思わず拳を握った。
「ああわかった。雨流に何かあったら俺が絶対守るよ」
「その言葉、信用させていただきます」
◇
「組織について何かわかったらすぐに知らせます。それに山城、今度うちの家にきませんか?」
「家? ああ、お礼にってことか」
するとミリアは、頬を赤くさせた。
「違います。あなたの真剣な表情、そしてその顔――私タイプなんです」
「へ? た、タイプ!?」
「また改めてお誘いします。それでは――」
黒塗りのリムジンは発進、ちなみに佐藤さんも帰って行く。
タイプって……まさかそんな……。
嵐のように現れ、嵐のように去って行く。
想像していたのと違って妹想いな奴《ミリア》だったが。
「鼻の下伸びてるわよ」
俺に突っ込みを入れてくる御崎。
伸びてないよ、伸びてませんけど!
「じゃあ、帰ろうっかー! おもち、田所、ぐーみ♪」
雨流は、おもちたちと手を繋いで家に戻ろうとする。
いや、確かに自国に戻るのは止めたが、家には帰っても良かったんだが、泊まっていきたいらしい。
「あのくらい啖呵切ったんだから、今日ぐらいはいいんじゃないの」
御崎は俺の表情で全てを理解している。まあ、それもそうか。
「しょうがないな。じゃあ御崎、また明日――」
「私も泊まる。セナちゃんとベッド使うから、阿鳥は床で寝てね」
「ここ俺の家なんだけど……」
「一応、登記では会社の事務所だから」
「いつのまに……」
ミニグルメダンジョン、魔石収集、謎の過激組織、もっちゃん探し――か。
「ま、スローライフばっかりじゃ飽きるもんな」
危険でやることも増えていくが、なぜか俺の頬は緩むのであった。