先日の助言通り、俺は探索者の登録に来ていた。
といっても、本当に役所の手続きみたいな感じで、血沸き肉躍るみたいな雰囲気は一切ない。
残念のような、ホッとしたような。
「ありがとうございます。これで登録が完了しました。身分証は右手に魔法印を刻む方法、電子カード、もしくは紙でお送りすることが可能ですが、どうされますか?」
受付のお姉さんが、丁寧に説明してくれた。要は免許証みたいなもので、右手に刻んでおけば持ち運ぶ必要はないとのこと。
「それってタトゥーみたいに残るんですか?」
「いえ、いつでも取り消すことが可能です。ダンジョンへ行く際の読み取り時に印が浮かび上がるだけなので、普段は誰かに見られることもありません」
「でしたら、そちらでお願いできますか? あと、おもちなんですが……」
「はい、畏まりました。“おもち”……ですか? どんな魔物でしょうか?」
俺は手に持っていた大型犬のキャリーケースを見せる。
そこには、スヤスヤと眠っているおもちがいた。もとい、フェニックス。
「鳥の魔物、でしょうか? タイプは炎、種族は……あまり見慣れませんね」
「ええと、それが……まあ多分間違いないんですが、フェニックスなんです」
「フェニ……って、あの伝説の!? ええええええええええええ!?」
微動だにしなかった冷静なお姉さんが、椅子から立ち上がって叫ぶ。
椅子がガタンと音を立て、周囲の人たち、果てはほかの役員の人も何があったのかと近づき、皆《みな》おもちに驚いていた。
「あ、あの解析させてもらってもいいですか? 手をかざして、個体を調べるだけなので」
「もちろんです。構いませよ」
すると後ろから若い男性が現れた。おもちに両手をかざし「ステータス、鑑定!」と叫んでいる。
なるほど、そういうスキルか。俺と違って随分と使い勝手が良さそうだ。
そしてやはり、おもちはフェニックスで間違いがなかったらしい。ただ、本社に問い合わせところ、不明点が多く、登録完了までに相当な時間がかかった。
ゆっくりと眠っていたおもちも目が覚めてしまい、退屈そうにしている。
「キュウ……」
「ごめんな、もう少し待ってくれるか?」
ようやく終わったころ、既に夕方になってしまっていた。
「すみません、時間がかかってしまって。滞りなく完了しました。居場所がわかるようにレーダー特定の魔法をかけさせてもらうことになっていますが、おもちちゃんは大丈夫でしょうか?」
「おもち、いいか?」
「キュウ!」
「大丈夫みたいです」
「凄い、意思疎通が出来てるんですね……」
「いや、なんとなくわかる程度ですよ」
完全に登録が完了。晴れておもちは俺の管理のもと、家族の一員となったのだった。一応、世間的にはテイム。
ただ、最後に「おもちちゃんは今まで例がないほどの魔力を秘めています。今後法律改正もあるとの噂で、魔力が高ければ高いほど飼育の環境が厳しくなる可能性があります。まだ整備が整っていないので、そのあたりはわかりかねてしまいますが」と、釘を刺された。
わかりやすくいうと、ライオンを飼うには鎖が必要だったり、檻が必要だ。それと同じで、脅威とみなされた場合、一軒家では飼えなくなるかもしれませんよ、とのこと。
まあそれはそうか。それまでに——。
「早いとこ田舎でのんびりしようか、おもち」
「キュウッ!」
役所から出た瞬間、おもちをキャリーから出すと、翼を広げて高く舞い上がった。
とても気持ちが良さそうだ。
少し浮遊してから戻ってくると、満足そうに笑顔になっている。
「よし、帰るか。あ、そうだな……この後、初めての配信をしてみないか? さっきスマホでも出来るって、お姉さんから聞いたんだ」
コクコクと頷くおもち。ありがとうなとお礼を言って、帰りにうどんを大量に購入した。
いくら安いとはいえ、このままでは数ヵ月持たない。おもち、頼むぜ!
◇
「といったものの、何をすればいいんだ?」
「キュウ?」
仲良く並んで首を傾げる。配信なんてしたことがない。
うーん、しかしおもちの良さを引き出せばいいはずだ。
おもちは……なんというか可愛い。
モフモフだし、美しい毛並みをしている。それでいて炎を纏っているので、格好良さもある。
導き出される答えは……。
「撮るぞ! おもち!」
「キュウッ! キュウキュウ!」
「出来たぞー、ほらザルうどんだ」
格好よさと可愛さを出すには、うどんを食べる姿を見せるのが一番だ。合ってるか? 合ってるだろう。
昔から俺はセンスがないと言われることが多いが、これにはリスターって人たちも満足だろう。あれ、リスナーだっけ?
とりあえず生配信ってのを押してみる。
アカウントは先日作っておいた。
名前『おもちフェニックスと俺の日常』
ばっちりだ。さすがにセンスが良すぎるだろ俺。
さて、開始っと……おお? 一人、二人、三人、結構増えていくな。
「初めまして、山城阿鳥《やましろあとり》25歳です。今は会社員をやっていて、趣味はゲームで——」
『おっさんかよ、見る気無くしたわ』退出しました。
『フェニックスって書いてたから期待したら、おっさんの日常じゃねえか』退出しました。
『氏ね』退出しました。
って、おい!? 最後は流石に言いすぎだろ!?
「もう辞めたい……」
って、ダメダメだ。逃げちゃダメだ。
確かに俺の自己紹介から始めるのはそりゃ悪手じゃろ蟻ンコ!
まずはおもちを紹介せねば。幸い、まだ一人残ってくれている。彼、もしくは彼女のためにも楽しませるんだ!
「と、すみません。俺の紹介はこのぐらいにして、さっそく主役の登場に参ります。フェニックスこと、おもちの登場でーす!」
「キュウーーー!」
おもちは元気よく翼を広げて現れた。赤くて綺麗な炎を纏っている。ただ、少し眩しいので光量の調節をした。
俺のナイスサポートだ。
『え? 本物のフェニックス?』
どうやら残っていた一人が驚いている。ふふふ、そうだろうそうだろう?
それから色々と羽根のことや炎の紹介をしていると、次々に人が増えてきた。
『ガチ? 合成?』『おもち、かわいかっこすぎるんだがw』『人間の言葉がわかってるような動きで萌え』
おお、いいぞいいぞ。コメントが増えている。次にお腹が空いたらしいので、うどんを食べてもらった。
つるつると啜るその姿は、格好よく、そしてかわいい。
『フェニックスってうどんが主食なの?』『器用でかわいいw 美味しそう』『ASMR配信よろ』
『チャンネル登録しますたw 毎日更新よろw』『主は炎耐性あるのか?』
概ね好評だ。ASMRってなんだ? 会いたい寂しいまだまだランボー? まあいいか。
おもちは食べ終えると、俺の頬にツンツンとキスをした。いつものご馳走様だ。
『食べ終わったらキスとか可愛すぎるだろwww』『フェニックスって狂暴って話だけど、だいぶ賢そうだな。てか、伝説級をテイムしたってことか? 凄すぎない?』『主とおもちはどこで出会ったの?』
なんとなく要領がわかってきたので、丁寧にコメントを返していく。俺とおもちの動作がシンクロしてるらしく、それも好評だった。
『シンクロナイズドスイミング』『もう二人でオリンピック出ろ』『これおもちが主をテイムしたんだよね?』
そうして好評のまま、配信は終盤。最後にまた頬をツンツンとしてきたので、俺は頭を撫でた。
「では、ありがとうございました。ばいばーい、あ、チャンネル登録お願いします!」
「キューイキュイ、キュイキューウ!」
『仲良すぎw』『もはやおもちが撮影して、人間をペットにしてる説ある』『うどんじゃなくてステーキ食べさせてあげてくれ』『楽しかったですw アーカイブ残してくださいね』『もしかして俺たちは伝説の一夜を目撃したのか』
最後までコメントで溢れていたので、大成功だろう。
終了ボタンを押して、おもちにありがとうと伝えると、嬉しそうに声を上げた。
「ありがとな、おもち」
「キュウ!」
そして翌日、目を覚ますととんでもないことが起きていた。
といっても、本当に役所の手続きみたいな感じで、血沸き肉躍るみたいな雰囲気は一切ない。
残念のような、ホッとしたような。
「ありがとうございます。これで登録が完了しました。身分証は右手に魔法印を刻む方法、電子カード、もしくは紙でお送りすることが可能ですが、どうされますか?」
受付のお姉さんが、丁寧に説明してくれた。要は免許証みたいなもので、右手に刻んでおけば持ち運ぶ必要はないとのこと。
「それってタトゥーみたいに残るんですか?」
「いえ、いつでも取り消すことが可能です。ダンジョンへ行く際の読み取り時に印が浮かび上がるだけなので、普段は誰かに見られることもありません」
「でしたら、そちらでお願いできますか? あと、おもちなんですが……」
「はい、畏まりました。“おもち”……ですか? どんな魔物でしょうか?」
俺は手に持っていた大型犬のキャリーケースを見せる。
そこには、スヤスヤと眠っているおもちがいた。もとい、フェニックス。
「鳥の魔物、でしょうか? タイプは炎、種族は……あまり見慣れませんね」
「ええと、それが……まあ多分間違いないんですが、フェニックスなんです」
「フェニ……って、あの伝説の!? ええええええええええええ!?」
微動だにしなかった冷静なお姉さんが、椅子から立ち上がって叫ぶ。
椅子がガタンと音を立て、周囲の人たち、果てはほかの役員の人も何があったのかと近づき、皆《みな》おもちに驚いていた。
「あ、あの解析させてもらってもいいですか? 手をかざして、個体を調べるだけなので」
「もちろんです。構いませよ」
すると後ろから若い男性が現れた。おもちに両手をかざし「ステータス、鑑定!」と叫んでいる。
なるほど、そういうスキルか。俺と違って随分と使い勝手が良さそうだ。
そしてやはり、おもちはフェニックスで間違いがなかったらしい。ただ、本社に問い合わせところ、不明点が多く、登録完了までに相当な時間がかかった。
ゆっくりと眠っていたおもちも目が覚めてしまい、退屈そうにしている。
「キュウ……」
「ごめんな、もう少し待ってくれるか?」
ようやく終わったころ、既に夕方になってしまっていた。
「すみません、時間がかかってしまって。滞りなく完了しました。居場所がわかるようにレーダー特定の魔法をかけさせてもらうことになっていますが、おもちちゃんは大丈夫でしょうか?」
「おもち、いいか?」
「キュウ!」
「大丈夫みたいです」
「凄い、意思疎通が出来てるんですね……」
「いや、なんとなくわかる程度ですよ」
完全に登録が完了。晴れておもちは俺の管理のもと、家族の一員となったのだった。一応、世間的にはテイム。
ただ、最後に「おもちちゃんは今まで例がないほどの魔力を秘めています。今後法律改正もあるとの噂で、魔力が高ければ高いほど飼育の環境が厳しくなる可能性があります。まだ整備が整っていないので、そのあたりはわかりかねてしまいますが」と、釘を刺された。
わかりやすくいうと、ライオンを飼うには鎖が必要だったり、檻が必要だ。それと同じで、脅威とみなされた場合、一軒家では飼えなくなるかもしれませんよ、とのこと。
まあそれはそうか。それまでに——。
「早いとこ田舎でのんびりしようか、おもち」
「キュウッ!」
役所から出た瞬間、おもちをキャリーから出すと、翼を広げて高く舞い上がった。
とても気持ちが良さそうだ。
少し浮遊してから戻ってくると、満足そうに笑顔になっている。
「よし、帰るか。あ、そうだな……この後、初めての配信をしてみないか? さっきスマホでも出来るって、お姉さんから聞いたんだ」
コクコクと頷くおもち。ありがとうなとお礼を言って、帰りにうどんを大量に購入した。
いくら安いとはいえ、このままでは数ヵ月持たない。おもち、頼むぜ!
◇
「といったものの、何をすればいいんだ?」
「キュウ?」
仲良く並んで首を傾げる。配信なんてしたことがない。
うーん、しかしおもちの良さを引き出せばいいはずだ。
おもちは……なんというか可愛い。
モフモフだし、美しい毛並みをしている。それでいて炎を纏っているので、格好良さもある。
導き出される答えは……。
「撮るぞ! おもち!」
「キュウッ! キュウキュウ!」
「出来たぞー、ほらザルうどんだ」
格好よさと可愛さを出すには、うどんを食べる姿を見せるのが一番だ。合ってるか? 合ってるだろう。
昔から俺はセンスがないと言われることが多いが、これにはリスターって人たちも満足だろう。あれ、リスナーだっけ?
とりあえず生配信ってのを押してみる。
アカウントは先日作っておいた。
名前『おもちフェニックスと俺の日常』
ばっちりだ。さすがにセンスが良すぎるだろ俺。
さて、開始っと……おお? 一人、二人、三人、結構増えていくな。
「初めまして、山城阿鳥《やましろあとり》25歳です。今は会社員をやっていて、趣味はゲームで——」
『おっさんかよ、見る気無くしたわ』退出しました。
『フェニックスって書いてたから期待したら、おっさんの日常じゃねえか』退出しました。
『氏ね』退出しました。
って、おい!? 最後は流石に言いすぎだろ!?
「もう辞めたい……」
って、ダメダメだ。逃げちゃダメだ。
確かに俺の自己紹介から始めるのはそりゃ悪手じゃろ蟻ンコ!
まずはおもちを紹介せねば。幸い、まだ一人残ってくれている。彼、もしくは彼女のためにも楽しませるんだ!
「と、すみません。俺の紹介はこのぐらいにして、さっそく主役の登場に参ります。フェニックスこと、おもちの登場でーす!」
「キュウーーー!」
おもちは元気よく翼を広げて現れた。赤くて綺麗な炎を纏っている。ただ、少し眩しいので光量の調節をした。
俺のナイスサポートだ。
『え? 本物のフェニックス?』
どうやら残っていた一人が驚いている。ふふふ、そうだろうそうだろう?
それから色々と羽根のことや炎の紹介をしていると、次々に人が増えてきた。
『ガチ? 合成?』『おもち、かわいかっこすぎるんだがw』『人間の言葉がわかってるような動きで萌え』
おお、いいぞいいぞ。コメントが増えている。次にお腹が空いたらしいので、うどんを食べてもらった。
つるつると啜るその姿は、格好よく、そしてかわいい。
『フェニックスってうどんが主食なの?』『器用でかわいいw 美味しそう』『ASMR配信よろ』
『チャンネル登録しますたw 毎日更新よろw』『主は炎耐性あるのか?』
概ね好評だ。ASMRってなんだ? 会いたい寂しいまだまだランボー? まあいいか。
おもちは食べ終えると、俺の頬にツンツンとキスをした。いつものご馳走様だ。
『食べ終わったらキスとか可愛すぎるだろwww』『フェニックスって狂暴って話だけど、だいぶ賢そうだな。てか、伝説級をテイムしたってことか? 凄すぎない?』『主とおもちはどこで出会ったの?』
なんとなく要領がわかってきたので、丁寧にコメントを返していく。俺とおもちの動作がシンクロしてるらしく、それも好評だった。
『シンクロナイズドスイミング』『もう二人でオリンピック出ろ』『これおもちが主をテイムしたんだよね?』
そうして好評のまま、配信は終盤。最後にまた頬をツンツンとしてきたので、俺は頭を撫でた。
「では、ありがとうございました。ばいばーい、あ、チャンネル登録お願いします!」
「キューイキュイ、キュイキューウ!」
『仲良すぎw』『もはやおもちが撮影して、人間をペットにしてる説ある』『うどんじゃなくてステーキ食べさせてあげてくれ』『楽しかったですw アーカイブ残してくださいね』『もしかして俺たちは伝説の一夜を目撃したのか』
最後までコメントで溢れていたので、大成功だろう。
終了ボタンを押して、おもちにありがとうと伝えると、嬉しそうに声を上げた。
「ありがとな、おもち」
「キュウ!」
そして翌日、目を覚ますととんでもないことが起きていた。