「おもち、美味しいか?」
「キュウ!」

 久しぶりの二人きり、自宅でおもちとうどんを食べていた。
 最近はきしめんにハマっている。
 太麺が、ツルツルと嘴《くちばし》を伝って入っていく。

「はは、見ていて気持ちがいいな」
「キュ?」

 このとぼけた顔も、炎を纏っている真っ白い羽根も全部余すことなく可愛い。 
 おもちと出会ってから何度も一緒に眠っているが、天然の羽毛布団も気持ちが良い。

 頭はシャンプーで羽根はボディーソープということもわかったし、以心伝心のレベルがあるなら50を突破していると思う。

「キュウキュウー!」
「はいはい、ご馳走様ね」

 食べ終わったあと、おもちはいつものように俺の頬にツンツンとしてくれた。
 求愛の合図も兼ねている、と思っている。

 御崎は、田所と碧のとこへ出向いている。
 野菜の売上金や今後についての方針があるとのことだ。
 本当に彼女には頭が上がらない。まあ、普段からあがらないんだけど。

 ということで、今はオフだ。
 こんなにもやることがないというのも久しぶりかもしれない。

「ふう、お腹いっぱいだ」
「キュウキュウー」

 おもちの腕枕でごろ寝しながら、スマホをポチポチ。
 これぞ現代人の最高の贅沢だ。withおもちも最高。

「うわ、結構ニュースになってるんだな」

 ネットには、先日の窃盗団についてが書かれていた。
 雨流の功績についても言及されており、死のダンジョンの制覇もそうだが、社会への貢献度が高いとのことだ。
 まあ俺からすればただの我儘娘ってとこだが、最近はずっと良い子なので可愛げもある。
 元々、根はいい子なんだろう。

「おもちは雨流のこと好きか?」
「キュウ!」

 そういえば雨流はどうして探索者なんて危険なことをしてるんだろう。
 普通に考えて家族も止めるはずだよな?
 本人に聞いてもはぐらかされるし、ネットで調べてみるか? でも、それもなんだかなあ……。

 でも、気になる……。

 ちょっとだけ……検索してみようかな?

 ……ポチポチ。

「おはようございます。阿鳥様」
「え? うわあああああああ、さ、佐藤さん!?」

 天井の灯りが遮られたかと思いきや、現れたのは武骨な執事だった。
 おいおい、心臓に悪いぜ……。

「すみません、声をかけたのですが返事がなくドアも空いていたので心配で入ってきてしまいました」
「あ、ああ……気づかなかったよ。そうか、どうしたんだ?」
「おもちぃー! 可愛いねえ!」

 気づけば雨流も入ってきている。
 今日は一段と可愛いピンク色のコーデだ。……可愛いじゃないか。

「先日の件のお礼です。セナ様がコテージでお泊りになってお世話になったと」
「ああ、むしろこっちが世話になったよ。お礼なんて言われる必要はない」
「いえいえ、それは出来かねます。セナ様のお姉様から言われているので、こちらを」

 差し出してきた袋を覗き込むと、魔石が大量に入っていた。
 見たこともない色があったりもする。……てか、姉?

「……ナニコレ」
「上級ダンジョン産のものです。武器や防具にも使えますし、お金に変えることもできますので、現金でお渡しするよりは使い勝手がいいだろうと」
「てか、雨流に姉なんていたのか」

 こんなお転婆娘の姉……。さぞ苦労しているんだろうな。
 でも、妹がS級ってどんな気持ちなんだろう。

「佐藤、お姉ちゃんの話はしないで」

 後ろを振り返らずに、雨流が言う。
 いつもよりも不躾な感じでめずらしい。
 
 気になったので、俺は小声で訊ねる、

「なんだ、仲が悪いのか?」
「そうですね、あまり良くはありません」

 ここまで佐藤さんがハッキリと明言するのもめずらしい。
 とはいえ、姉妹で喧嘩ぐらいはするだろう。

 あんまり気にすることでもないか。

 ただまあ、雨流の姉っていうからにはやっぱり強いのかな。

「ただいまー、特売だったからトイレットペーパー買ってきた――あれ、セナちゃんにさっちゃん?」
「ぷいにゅー」

 そして現れる御崎と田所。
 田所は擬態でカートに変身していて、そこに大量に物を乗せられている。 

 ディスイズ、パワハラ!

「みーちゃんっ!」

 むぎゅっと御崎に辿り着く雨流。いつのまに仲良くなってるんだ。
 そして田所カートをよく見ると、夏でよく見かけるものが入っていた。

「御崎、どうしたんだこれ?」
「えへへ、最近忙しかったじゃない? 色々一段落付いたからとおもって、あ! ちょうどいいね、皆でしようよ!」

 まじかよ……と、思ったが、みんなでしたほうがたしかに楽しいもんな。

 BBQってやつは。

 ◇

「この肉美味い……」
「でしょ? いいお肉買ってきたんだ~」

 俺が感激しながらゆっくり味わっていると、ルンルンで肉を次々口に放り込んでいく御崎。
 もう少しゆっくり食べて!
 でもこれ経費で落ちるかな?

「キュウっ」
「ぷいっ」

 俺の予想とは裏腹に、おもちと田所は野菜も美味しそうに食べている。
 もしかして草食系? いや、でも肉を食べてる時もあるもんな。

「どうぞ、焼きは私に任せてください」

 佐藤さんは自前のエプロンで、颯爽と塩を振りかけながら火の番をしてくれている。
 なんでそんなの持ってるの? 準備良すぎないか?
 てか、この人何でもできるな……。

「はふはふっ、美味しいねドラちゃん」
「最高でちゅねえええ」

 雨流はドラちゃんと一緒に串肉を頬張っている。

 申し遅れたが、ここはミニグルメダンジョン内だ。
 ドラちゃんのおかげで天井が高くなっているのと、風を操作してくれているので入口まで煙が昇っていくので籠らない。
 俺の庭が狭すぎるのでここにしたが、何よりも安全なのだ。
 
 そして――。

「お、冷えてるな」

 ダンジョンに端に、小さい水路が出来ていた。これは魔力を通して壁から真水が溢れてきているらしい。
 詳しい原理はわからないが、とにかくそうらしい。

 そこに冷やしてあった瓶に入れたミニウシの冷えたミルクを取り出すと、ぐっと飲みほした。

「ふう……最高すぎる」

 当初思い描いていたのは田舎でスローライフだった。
 それには程遠いが、今は近い暮らしが出来ている。

 とはいえ、やるべきことはたくさんある。
 ここに住み続けるならば老朽化した家を建て直したほうがいいだろう。
 それには莫大な資金がかかるのと、思っていた以上にミニウシたちの餌代もかかる事に気づいた。

 配信者として活動も続けたいし、もっと安定した生活の基盤も欲しい。

「キュウキュウ!」

 するとおもちが、近づいてミルクを強請ってきた。
 ほんと、可愛いな……。

「おもちのおかげで俺は幸せだよ、これからもよろしくな」
「キュウ!」

 それともう一つ、俺たちはやらないといけない重要なことが出来た。いや、出来てしまった。

「御崎、ダンジョンの話はどうなってる?」
「来月から私たちはB級になるみたいだから、色々とまた行ける場所が増えるみたい」
「そうか、良かった」

 庭にできたダンジョンが突如崩壊し、全てが消え去ったという掲示板を視聴者さんから教えてもらったのだ。
 そして佐藤さんとドラちゃん曰く、魔構築が足りないとそうなる可能性はもしかしたらあるとのことだった。

 ミニグルメダンジョンを崩壊させないためには、大量の魔石が必要。
 そして核というものがあれば更に安定するらしい。

 同時に、御崎の言う通り窃盗団の功績で、俺たちはB級に上がれることになった。

 今後の目標はスローライフを更に安定させつつ、家を建て替え、様々なダンジョンを巡って魔石を集めることになる。

 それには大きな危険や新たな出会いがあるだろう。

 けれども、おもちや御崎、田所や雨流、佐藤さんがいれば怖いもんなしだ。

「まあでも、雨流と佐藤さんがいればダンジョンなんて楽勝だよな」

 俺がふと口にした言葉だったが、佐藤さんが困ったように頬を掻いた。

「すみません……私たちはS級なので政府から依頼を受けたダンジョン以外はそう簡単に許可が下りないんですよ」
「……え、まじ」

 正直、少し当てにしてたが……まあでも、大丈夫か。

「おもち、これからも頑張るぞ!」
「キュウキュウ!」
「ぷいぷい!」
「ああ、田所もよろしくな」
「私も、でしょ」
「はい、御崎ママ」

 俺たちの冒険はまだまだ始まったばかりだ。