「奴らだ……くそっ! 山城さんたちはすぐ離れてください!」

 剛士さんが顔面蒼白になりながら声を漏らし、すぐに駆けていった。
 追いかけようと思ったが、先に御崎に声をかける。

「俺は剛士さんを追う。御崎は雨流といてくれないか?」

 雨流の強さは知っている。だが、連中がどんな相手だかわからない以上、危険な目に合わせたくはない。
 いくら強いとはいえ、まだほんの子供だ。それを当てにするなんて、流石に大人としてありえないだろう。

「嫌」

 だが、おもちと戯れていた雨流が、むくりと立ち上がった。
 そしてその表情は、いつものあどけない雨流ではなかった。

「……話は聞いてた。私も手伝う」
「セナちゃん、これは大人の私たちがなんとかするわ」

 御崎も同じ気持ちのようだ。だが、雨流は首を横に振る。

「私は……前に取り返しのつかないことをした。今は……わかるの。大切にしている魔物が奪われるなんて、そんな辛いことはないって。だから、私は戦う。――それに、私は絶対に負けるわけがない」

 その瞬間、とんでもない魔力が肌に突き刺さった。
 以前戦った時と同じだ。いや、それ以上か。

 ……言っても無駄だな。

「わかった。俺は剛士さんを追う、二人は反対側の従業員や魔物を助けてくれ」
「阿鳥、無茶しないでよ」
「ああ、逃げるのは得意だからな。おもちと田所は俺に着いてきてくれ!」
「キュウキュウ!」
「ぷいいいい!」

 そして俺たちは二手に分かれて外に出た。

 ◇

「おいてめえら、急ぎやがれ! 出来るだけ希少価値の高いモンスターから奪い取れよ!」
「「「「へい!」」」」

 飛び出した瞬間、遠くで叫んでいる声が聞こえた。
 間違いない、剛士さんが言っていた連中が来ているのだ。

「おもち、まずは敵の人数を確認したい。空から合図を送ってくれないか?」
「キュウー!」

 天高く飛び上がるおもち。それから少しすると、鳴き声で人数を教えてくれた。
 思っていた以上に……多い。30人くらいだそうだ。

 そして田所が、俺の右腕に飛びついた。

「よし、田所ソードだ!」
「ぷいにゅー!」

 次の瞬間、田所は俺の手にぐるぐる巻きになったあと、メラメラと燃えて剣となった。
 以前よりも魔力が漲っている気がする。

「おもちはそのまま広範囲で見張っててくれ。従業員や魔物が連れ去られそうなら、威嚇でブレスを撃っても構わない。だが、やりすぎるなよ!」
「キュウウウウウウウウ!」

 おもちの炎のブレスなら一撃でこのあたりを焼け野原にはできるだろう。
 けれどもそんなことはできない。放牧場のこと考えると、出来るだけ現状維持で済ませたい。
 戦って勝つだけじゃない、これは牧場を守る戦いなのだ。

 一直線に牛舎まで駆けると、剛士さんが必死にミニウシたちを避難させようとしていた。
 まだここまで敵は来ていないらしい。

「剛士さん!」
「阿鳥さん、来てくれたんですね! ――って、その炎の剣、なんですか!?」

 剛士さんは、俺の剣に驚く。炎中和スキルを弱めているので、熱波も感じるらしい。

「これは田所ソードです。それより、ここから先は僕が請け負います。魔物や皆を奥まで避難させてください」
「そんな危険ですよ! 言いそびれてましたが、奴らの中には相当な使い手もいるとのことです!」

 そんな奴もいるのか。とはいえ、当たり前だろう。
 ……二人を別々にしたのはまずったか?
 
「いえ、大丈夫です。その代わり、夕食をご馳走してくださいよ」
「そんな……無茶しないでくださいね!」
「しませんよ――」

 剛士さんに後を頼み、俺は草原へ向かった。

 そして、すぐに黒ずくめの怪しい連中がいた。如何にもな風貌をしている。

 奥には大きなトラックが何台もあり、連れ込もうとしているのが明白だった。
 俺が想像していたよりも大きな窃盗団らしい。

 わざと声を荒げて、奴らの注意を引く。

「おい、てめえら! やっていいことと悪いことがあるだろうが!」

 居酒屋で働いていた時のおかげか、俺の声に気づく。ありがとう海鮮居酒屋。

「なんだあいつ?」
「炎の剣……? おい、右手が光ってんぞ! 気を付けろ、探索者だ!」
「はっ、よくみろ、たかがC級だぞ」

 俺の右手の甲が、イエローに輝いている。
 探索者のランクは色でランク付けされているので、外で魔力を漲らせるとわかってしまう。
 黄色はC級を表す。

 少し手前で止まると、連中は俺の前に立ち塞がった。

「めずらしい剣持ってんなあ。よこせよ兄ちゃん」
「生憎だが、こいつはあげれねえんだ」
「ぷいにゅー!」

 田所ソードが剣のまま喚く。同時に、目がぎょろっと浮かび、相手を睨んだ。
 連中は少したじろいだが、そのうちの一人が手を翳し、直後に魔物だと叫ぶ。

「あいつの剣、炎タイプのスライムだぞ!」
「なに!? まじかよ!? 聞いたことねえぞ!?」
「武器に化けるなんてレアもんじゃねえか! おい全員でこいつを取り囲め!」

 スキルの中には、鑑定というものが存在する。
 おそらくこいつはそれを持っているのだろう。かなりレアだと聞いたことがあるが、それをこんな事に使うとは。
 俺の炎耐性(極)よりもいいじゃねえか!

「人のモンスターは奪うもんじゃねえって、小さい頃にポ○モンで習わなかったか?」

 ”充填”はもう済んでいる。初っ端から全力でいくつもりだ。

「おいC級、これを見ろ」

 連中はおよそ十人ほど。
 そのうちのガタイのいい髭面の男が、右手を光らせながら前に出た。
 色は青、こいつはB級だ。

「……それがどうした?」
「強がるんじゃねえよ、俺はてめえより上だ。俺の攻撃を食らえば、お前は速攻で死ぬ。それにこの人数、相手にできると思ってんのか?」

 取り囲んだ連中が、手を上に向けると、赤い玉、白い玉、青い玉が出現した。
 魔力が漲っているのを見ると、当たると大ダメージは間違いないだろう。
 なるほど、下っ端に見えたが、奴らも使い手らしい。

 だが――。

「俺に当たればだけどな」
「はあ? ――がぁぁっ!?」

 次の瞬間、俺は炎を足に漲らせて地を蹴った。
 連中からすれば、目にもとまらぬ速度だろう。
 まったく視線が追いついていない。一人、二人、三人と続けて、魔法の玉を弾く暇も与えなかった。

 あれから訓練所には何度も通わせてもらっている。
 誰かを守る為に後悔はしたくないからだ。

「「田所、威力は弱めておけよ!」
「ぷいにゅ!」

 気づけばものの数秒で奴らは倒れていた。
 全員気絶、昔、おじいちゃんに剣道を習っていたおかげだ。
 畑もおじいちゃんのおかげだし、おじいちゃんありがとう。

「く……俺の爆砕破壊光線《エクスプローションデストロイビーム》さえ当たっていれば……無念……」
 
 あ、まだ起きてた。
 でも、B級《こいつ》のスキル何だったんだだろう……ちょっと気になる……。

『炎の充填が無くなりました』

 そして流れるアナウンス。
 前から思っているが、かなり燃費が悪い。使い勝手はいいが、長期戦には向いてな――。

 ――ゴオオオオオオオオオオオッ!

「なっ!?」

 その時、後ろからもの凄い魔力を感じて思わず飛んだ。
 着地してから後ろを振り返ると、立っていた場所にどでかい穴が開いていた。
 ……もの凄い威力だ。

「ふん、C級のくせに反応はいいみたいだな」

 2メートルはある体格、服の上からでもわかるほど盛り上がった筋肉、それよりも目立っているのは赤く光っている右手の甲。
 
 こいつ――A級探索者だ。

 S級には及ばないにしても、とんでもない魔法を持つことは間違いないだろう。
 一体……どんなスキルを使うんだ……。

 ゴオオオオオ。

 あれ? ……よく見たらこいつの右手、燃えてない?