「すみません、一番大きな家ってどれですか? 出来ればベットはキングサイズだと嬉しいのですが」
「お調べしますね。ちなみにお伺いしたいのですが、お子様のご年齢とかはわかりますでしょうか?」

 俺は数十年ぶりに、おもちゃのトイザラソに来ていた。
 店内にはありとあらゆるゲーム、おもちゃ、ぬいぐるみが陳列されている。
 誰もが子供の時、ここで遊んだことがあるだろう。そして駄々をこねたことがあるだろう。
 かくいう俺も、ある。

「確か……四百歳とかいってたような……」
「はい? よんひゃ……?」

 明らかに怪訝そうな顔をする女性定員。俺はハッとなる。

「あ、すいません。とにかく大きければ大きいほどいいです」
「は、はあ……? わかりました。ではこちらへどうぞ」

 ふう、あやうく変人扱いされるところだった。
 俺の今の気持ちはパパだ。子供たちにプレゼントを買ってあげるパパ。

 そういえば子供達《おもちとたどころ》の姿が見えないな。

「キュウキュウ? キュウキュウ!」
「ぷいにゅーっ! ぷいぷい!」

 音の鳴るほうに視線を向けて見ると、ジェソガをしている二人がいた。
 それも器用にバランスを保ちながらレベルの高い試合をしている。

「もう人間じゃん……」

 ちなみに負けたのは田所だった。

「キュウ!」
「ぷい……」

 ◇

「よおし、パパ帰るゾー」

 念願のプレゼントを購入。
 ただ、想像の何倍も大きかったのと何倍も高かった。
 最近のおもちゃってのはギミックが凄い分、値段もそれなりなんだなあ。

 世のお父さん、お母さんは苦労してるな……。

「キュウキュウ」
「ぷいぷい」
「どうした? おもちゃで変形ロボットを見て覚えたって? だから、それに乗せてやる?」

 俺は自転車に乗り込もうとしたのだが、田所が何か言っている。
 ついさっき遊んでいたロボットになれると言い出したのだ。

「大丈夫かよ……」
「ぷい、ぷいにゃー!」

 すると田所が、みるみるうちにガチャガチャと謎の金属音を響かせながら、おもちと合体しはじめた。
 そして出来上がったのは、身長七十センチぐらいで、顔が田所のロボットだった。おもちはコックピットにいる。

「すげえ……やるじゃねえか!」
「ぷぷー!」「キュウン!」

 でも、どうみても乗り込むところがない。

「もう完成してない?」

 すると田所は、足をぽんぽんと叩いた。

 ……え? つかめってこと?

 ◇

「うわああああああああああ!?」

 俺は今――空を飛んでいる。
 田所ロボット改おもちver with阿鳥。

 といっても俺は足を掴んでるだけで、手を離したら落ちるだろう。
 これ、乗ってるっていうのか? コックピットにいるおもちがどいてくれたらよくないかああああああああああああ!?

 風が吹き、俺はあやうく落ちそうになった。

「ママ、あれなにー? おじさんがロボットの足に捕まってるー」
「見ちゃダメ! あれは会社を辞めてテイムした魔物と遊んでるニートおじさんなんだから! ほら、トイザラソの袋を持ってるでしょ。きっと家も子供部屋おじさんなのよ!」
「はーい、ママー」

 なんか遥か下でとんでもないことを言われている気がする。
 気のせいだったらいいんだが……。

 ◇

「調子はどう、なにこれええええええええええええええ!?」
「照らせー! 輝かせー! 発芽せー! ふえええええええええええええええ!?」
 
 ミニグルメダンジョン内に入ると、ドラちゃん(長いのでこう呼ぶことにした)のいつもの元気な声が聞こえた。
 いや、それとは別に驚いたことがある。
 想像の何倍以上も、畑や植物がにょきにょきと生えているのだ。
 それに広くなっている気がする。

「凄いな……全部ドラちゃんが?」
「あたちの功績というよりはこのダンジョン内の魔力が良いですね! 素晴らしいです! 私も、サイコーです!」
「なるほど、でもあんまり無理するなよ」
「はい! あれ、その手にあるやつなんでちゅか?」
「ああ、ドラちゃんの家だよ。――ほらっ」
「……家? え、えふええええええええええ!? しゅごいですううううううう」

 ――――
 ――
 ―

 後日、俺は初めて編集というのを御崎に教えてもらって動画を投稿した。
 以下は、後日のコメントと映像、そして俺の生反応である。

 タイトル『アトリ、ドラちゃんを白い液体に沈めてみた』

 初めてのドッキリだ。サムネもこだわっているので、これは再生されるはず。
 まずは挨拶だ。

「会えない時の為に、おはようこんにちはこんばんは、どうもアトリです」

『キター! 初ドッキリ?』『なんか過激じゃない?』『ちょっと怖い……』『主どうしたの?』

 明らかにコメントが不安そう。少しやりすぎたか? と思ったが、たまには趣向を凝らしてみるのもいいだろうと。

「今日はいつも頑張ってくれている精霊ドライアドっちこと、ドラちゃんに、ドッキリを仕掛けたいと思います!」

『白い液体ってまさか……』『アトリどうしたんだwww』『おい、これやばくねえか?』『削除されるぞ!』

 もう我慢できねえんだ。


 ダンジョンに入ると、俺はトイザラソで購入した物を置いた。

「ご主人ちゃま、これはなんでちゅか?」
「頑張ってくれているご褒美で家を買ってきたよ。ほらドラちゃん」
「いえ? 家ってなんでちゅか?」

 店で売っていた一番大きいサイズ。ドラちゃんは凄く小さいので、広々と暮らせるだろう。

『これってもしかして?』『懐かしいw』『あれ、ドッキリの雰囲気が変わって来たぞ』

 そしてドラちゃんは、玄関を開けた。

「はわはわわわ、なにこれ素敵、素敵、素敵ですぅ!」
「ははっ、そうだろ。喜んでもらえて良かった」

 そうなんと、俺が買ってきたのは――リコちゃん人形の家だ。
 大きな家で、風呂にトイレ、バスタブまで付いている。

 ちなみにベットはキングサイズ。更に家具付きだ。
 ドラちゃんは多分女性、というか女の子風貌なので、喜んでもらえると思った。

「中も、中も綺麗ですう!」

『ドラちゃん可愛いw』『夢の一軒家!』『アトリやるな!?』『でも、白い液体ってなんだ?』

 喜ぶドラちゃん、そして俺はいくつもの瓶を取り出した。
 臭みがなく、良い匂いがして、肌もツルツルになると言われているものを厳選した。

「ほら、ドラちゃん」
「はい? ご主人ちゃま?」
「服を脱いでくれ」
「え、えええ!?」

 物陰でこそこそと脱ぎ始めるドラちゃん、当然、動画には映していない。
 ドラちゃんは木を枝みたいなのを身体に巻き付け、肌を隠している。もちろん俺は脱ぐところを見ていない。ここ重要です。

「では、白い液体を入れていきます」
 
 俺は湯舟に――白い液体をゆっくりと湯舟流し込む。
 そう、誰もが一度は夢見る『ミルク風呂』だ。

「はわはわ、ナニコレ良い匂いです!」
「どうぞ、入って見て」
「はいっ! ――あ、気持ちいいでちゅ」
「良かった。喜んでもらえて」

 ちゃんと人肌、いやドラ肌程度に温めておいた。
 昔アニメで見たが、ずっと羨ましいなと思っていたのだ。ドラちゃんにはこれからもお世話になるだろうし、ダンジョン内でしか生きられないという彼女にとって住居は大切だ。
 ご主人ちゃまとして、住環境を整えてあげるのは当然のこと。

『白い液体ってこういうことかw』『ミルク風呂羨ましい』『ドラちゃんの恍惚な表情で白米いける』

 ドラちゃんにサプライズプレゼントは大成功。動画も大成功だった。


 ちなみにおもちと田所がうるさかったのでジェソカを買ってあげたのだ。
 二人が遊ぶその動画も撮影し、投稿、それはなんと五十万再生を超えた。

 しかし悪意ある切り抜きがそれを超えてしまう。


『悲報、フェニックスの飼い主である噂の子供部屋おじさん、幼女にセクハラ』

「ドラちゃん、服を脱いでくれ」
「えええ!?」

「白い液体を流し込んでいいか?」
「ふええええええ!?」

 連日の炎上……配信者って難しい……。