「あついよー! あついよー! 撃たれたー!」
スライムは無傷のまま、泣き叫んでいた。
「……なんだコイツ……」
「もしかして、炎に対して無敵ってこと?」
「いや、流石におもちのブレスはそんな生易しいもんじゃないぞ」
『このスライム……強い!』『おもちが……負けただと!?』『炎タイプっぽく見えるけど、どうなんだろう』
「仕方ない。おもち、もう一度炎のブレスだ!」
「キュー!」
「わー! しんじゃうッ、しんじゃうー!」
再び放たれる炎のブレス。二度、三度、四度。
「やーめーてー! やめてー!」
だが、結果は同じ。倒すどころか、傷つけることすらできない。
怯えたスライムはやがて俺たちから離れていく。
「おい、逃げるなッ!」
「ひゃあああ」
が、逃げ足は遅いので、んしょっんしょっと、離れようとしたところを手で掴んだ。
……あれ? 弱いのか??
『貧弱すぎる足』『代走してあげてくれ』『おばあちゃんぐらい遅いw』『ニッチローなら二塁はいけてた』
「ったく、炎に強いだけか」
「じたばたー! じたばたー!」
「黙りなさい。御崎、このまま何かに詰めて持って帰るか?」
「そうね、タッパがあるから入れてみる?」
「ああ、そうしよう」
「やめてー! 窒息死しちゃうー!」
ぎゃあぎゃあとあまりにうるさいので、一旦地面におろす。
それでもまだ騒ぐので、もういいよと言ったら、今度は仲間になりたそうな目で見つめてくる。
何なんだコイツは……。
『これは面倒な構ってちゃん』『メンヘラスライムか……あり』『可愛いから許してあげようよ』
結局俺たちは、スライムの身の上話をなぜか聞くことになった。
「ボク、幼いころの思い出があって、お母さんに――」
「おもちは羽は寝心地がよいなぁ」
「ほんと、眠れそう」
「って、誰も聞いてない!?」
本当に1からだったので、放置していたら、今度はスライムに怒られる。
「手短にしてくれ」
「ぐすん……。えっとね、気づいたらここにいて……多分、フェニックスの炎の魔力に釣られちゃったんだ」
なるほど、もしかするとサイクロプスもその可能性があると、御崎と話していたところだ。
弱肉強食の本能と言うべきだろうか。
「ほう、ならどこから来たんだ?」
「地下45階くらいかな? あ、6かも」
「45……?」
びっくりして、思わず御崎と顔を見合わせた。このダンジョンは初心者に優しいとはいえ、それは浅い階層のみ。
スライムの言葉が真実なら、”S級探索者のみ”しか許されないフロアで生息していたことになる。
『まじ?』『流石に嘘だと思う』『うーん、信用するものがない』『嘘っぽい』『でも、おもちの攻撃は防いだ』
コメントも否定的だ。確かに俺も信用できないが、おもちの件は同意。
「本当か?」
「嘘じゃないよ! 本当なの!」
いくら炎タイプとはいえ、ブレスを防いだことは紛れもない真実だ。
嘘か本当化は別として、それ相応の能力はあるのだろう。……でも、なんで戻りたくないんだ?
「あの場所、皆ギラギラしてて殺意高いし、たまに人間が来ても警戒マックスだから話かけたら逃げられちゃうし、もう嫌なんだ! ボクだって、外の世界みたい!」
なるほど……そりゃ、一つのミスも許されないと言われている最下層で話しかけてくるスライムがいたら怖いだろう。
俺でも無視する、というか殺されると思って逃げるな。
そう言われると、至極真っ当な答えだ。チラリと御崎を見る。まあ、好きにしたら? という表情。
「おもち、どうす――」
「キュウキュウ♪」
するとおもちは、スライムに向かって羽根をこすりつける。……なるほどね。
確かにずっとおもちが一人だと可哀想だと思っていた。お留守番の時にも、友達がいたら寂しくないだろう。
「よし、だったら今日から俺たちは仲間だ。けど、そのためにはテイムが必要だ。それでもいいか?」
「もちろん! わーい!」
まったく、変なやつだな。
俺はおもちの時と同じように手をかざす。
右の甲が光輝き、探索者専用の印が浮かび上がる。そしてそれは、スライムの額にも一瞬だけ浮かび上がった。
『キター!』『名前何になるんだろうか』『メンヘラスライム、略してメンスラにしよう』
『二人目だー!』『てか、おもちとこのスライムめちゃくちゃ強くね?』『声が可愛いから好き』
契約が終了。これで、テイム完了だ。
そういえば、レベル差がありすぎるとテイム出来ないと聞いたことがあるが、おもちとスライムは問題ないな。
『スライムのテイムが完了しました。ステータスをオープンしますか? はい/いいいえ』
次の瞬間、メッセージが表示された。
普通は出ると聞いたことがある。なぜかおもちの時は見れなかったが、なんせ、人生で二人目だ。
はい、をクリック。
名前:ファイアスライム。
生息地:始まりのダンジョン最下層
レベル:非常に高い。
魔法:擬態。
忠実度:非常に高い
一言:甘えん坊の構ってちゃん。
……レベルが非情に高いってなんだ。なんか曖昧だな。
ってか、やっぱり甘えん坊なのかよ。
「阿鳥、お疲れ様。それと、スラちゃんは具体的に何が出来るのかしら?」
早速スラちゃんと略してるのは気になるが、御崎の言う通りだ。あまり考えていなかったが、見た目の可愛さと防御力だけか?
持ち上げて見ると、ゼリーっぽくて気持ちがいい。
人生を駄目にするスライムみたいな活躍で椅子になってもらおうかな。
「変身が得意だよ! この声も、人間の声帯模写なんだ!」
「ほかには?」
御崎の問いかけに、スライムは「じゃあ、みてて!」と可愛い声を出した。
突然俺の背中にくっつき、その形態を変化させていく。そして、赤い羽根のようになった。
炎がメラメラと燃えているが、炎耐性(極)の俺にはまったくが問題ない。中和スキルがなければ、おそらく燃えているだろうが。
「おお、格好いいじゃないか。で、これって?」
『もしかして……まじ?』『飛べ、飛ぶんだジョー!』『スライム、使える……!』
しかし変身している時は会話することができないらしく、俺の脳内に直接テレパシーが流れ込んでくる。
ご主人様――――――いくよ!
次の瞬間、俺は高く舞い上がるった。地面が遠ざかって、御崎とおもちが小さく見える。
空を――飛んでいる。
「すげえ……」
古来より人は空を飛びたいという願望がある。
それによって飛行機、果てはスカイダイビングなんてものまであるのだ。
俺はその願いが、予想外にも叶ってしまった。
『凄いでしょ? ボク、変身できるんだ!』
「ああ、正直見くびってたよ。めちゃくちゃ凄いじゃないか」
『えへへ、あ、でも、思ってたより空飛ぶのって難しい』
すると羽根はバタバタとし始める。
「おい、スライム!? 大丈夫か?」
『あ、えあ、お、落ちるうううううううううう!?』
「って――おい――おい!?」
赤い羽根の変身が解け、徐々にスライムに戻って行く。
当然――自由落下。
「うわああああああああああああああああ!?」
「――動かしてあげるッ!」
しかし寸前のところで御崎がスキルで助けてくれた。
おもちも助けようとしてくれていたらしく、羽根を広げている。
『主、死んだかと思ったwwwwww』『消えたかと思ったら天高く舞い上がってて草』『もうすぐでダーウィン賞だった』
「……スライム、クビだ」
「えええ!? ごめんなさいッごめんなさいッ!」
そうして俺たちに、甘えん坊でドジな構ってちゃんのファイアスライムの仲間が増えたのだった。
スライムは無傷のまま、泣き叫んでいた。
「……なんだコイツ……」
「もしかして、炎に対して無敵ってこと?」
「いや、流石におもちのブレスはそんな生易しいもんじゃないぞ」
『このスライム……強い!』『おもちが……負けただと!?』『炎タイプっぽく見えるけど、どうなんだろう』
「仕方ない。おもち、もう一度炎のブレスだ!」
「キュー!」
「わー! しんじゃうッ、しんじゃうー!」
再び放たれる炎のブレス。二度、三度、四度。
「やーめーてー! やめてー!」
だが、結果は同じ。倒すどころか、傷つけることすらできない。
怯えたスライムはやがて俺たちから離れていく。
「おい、逃げるなッ!」
「ひゃあああ」
が、逃げ足は遅いので、んしょっんしょっと、離れようとしたところを手で掴んだ。
……あれ? 弱いのか??
『貧弱すぎる足』『代走してあげてくれ』『おばあちゃんぐらい遅いw』『ニッチローなら二塁はいけてた』
「ったく、炎に強いだけか」
「じたばたー! じたばたー!」
「黙りなさい。御崎、このまま何かに詰めて持って帰るか?」
「そうね、タッパがあるから入れてみる?」
「ああ、そうしよう」
「やめてー! 窒息死しちゃうー!」
ぎゃあぎゃあとあまりにうるさいので、一旦地面におろす。
それでもまだ騒ぐので、もういいよと言ったら、今度は仲間になりたそうな目で見つめてくる。
何なんだコイツは……。
『これは面倒な構ってちゃん』『メンヘラスライムか……あり』『可愛いから許してあげようよ』
結局俺たちは、スライムの身の上話をなぜか聞くことになった。
「ボク、幼いころの思い出があって、お母さんに――」
「おもちは羽は寝心地がよいなぁ」
「ほんと、眠れそう」
「って、誰も聞いてない!?」
本当に1からだったので、放置していたら、今度はスライムに怒られる。
「手短にしてくれ」
「ぐすん……。えっとね、気づいたらここにいて……多分、フェニックスの炎の魔力に釣られちゃったんだ」
なるほど、もしかするとサイクロプスもその可能性があると、御崎と話していたところだ。
弱肉強食の本能と言うべきだろうか。
「ほう、ならどこから来たんだ?」
「地下45階くらいかな? あ、6かも」
「45……?」
びっくりして、思わず御崎と顔を見合わせた。このダンジョンは初心者に優しいとはいえ、それは浅い階層のみ。
スライムの言葉が真実なら、”S級探索者のみ”しか許されないフロアで生息していたことになる。
『まじ?』『流石に嘘だと思う』『うーん、信用するものがない』『嘘っぽい』『でも、おもちの攻撃は防いだ』
コメントも否定的だ。確かに俺も信用できないが、おもちの件は同意。
「本当か?」
「嘘じゃないよ! 本当なの!」
いくら炎タイプとはいえ、ブレスを防いだことは紛れもない真実だ。
嘘か本当化は別として、それ相応の能力はあるのだろう。……でも、なんで戻りたくないんだ?
「あの場所、皆ギラギラしてて殺意高いし、たまに人間が来ても警戒マックスだから話かけたら逃げられちゃうし、もう嫌なんだ! ボクだって、外の世界みたい!」
なるほど……そりゃ、一つのミスも許されないと言われている最下層で話しかけてくるスライムがいたら怖いだろう。
俺でも無視する、というか殺されると思って逃げるな。
そう言われると、至極真っ当な答えだ。チラリと御崎を見る。まあ、好きにしたら? という表情。
「おもち、どうす――」
「キュウキュウ♪」
するとおもちは、スライムに向かって羽根をこすりつける。……なるほどね。
確かにずっとおもちが一人だと可哀想だと思っていた。お留守番の時にも、友達がいたら寂しくないだろう。
「よし、だったら今日から俺たちは仲間だ。けど、そのためにはテイムが必要だ。それでもいいか?」
「もちろん! わーい!」
まったく、変なやつだな。
俺はおもちの時と同じように手をかざす。
右の甲が光輝き、探索者専用の印が浮かび上がる。そしてそれは、スライムの額にも一瞬だけ浮かび上がった。
『キター!』『名前何になるんだろうか』『メンヘラスライム、略してメンスラにしよう』
『二人目だー!』『てか、おもちとこのスライムめちゃくちゃ強くね?』『声が可愛いから好き』
契約が終了。これで、テイム完了だ。
そういえば、レベル差がありすぎるとテイム出来ないと聞いたことがあるが、おもちとスライムは問題ないな。
『スライムのテイムが完了しました。ステータスをオープンしますか? はい/いいいえ』
次の瞬間、メッセージが表示された。
普通は出ると聞いたことがある。なぜかおもちの時は見れなかったが、なんせ、人生で二人目だ。
はい、をクリック。
名前:ファイアスライム。
生息地:始まりのダンジョン最下層
レベル:非常に高い。
魔法:擬態。
忠実度:非常に高い
一言:甘えん坊の構ってちゃん。
……レベルが非情に高いってなんだ。なんか曖昧だな。
ってか、やっぱり甘えん坊なのかよ。
「阿鳥、お疲れ様。それと、スラちゃんは具体的に何が出来るのかしら?」
早速スラちゃんと略してるのは気になるが、御崎の言う通りだ。あまり考えていなかったが、見た目の可愛さと防御力だけか?
持ち上げて見ると、ゼリーっぽくて気持ちがいい。
人生を駄目にするスライムみたいな活躍で椅子になってもらおうかな。
「変身が得意だよ! この声も、人間の声帯模写なんだ!」
「ほかには?」
御崎の問いかけに、スライムは「じゃあ、みてて!」と可愛い声を出した。
突然俺の背中にくっつき、その形態を変化させていく。そして、赤い羽根のようになった。
炎がメラメラと燃えているが、炎耐性(極)の俺にはまったくが問題ない。中和スキルがなければ、おそらく燃えているだろうが。
「おお、格好いいじゃないか。で、これって?」
『もしかして……まじ?』『飛べ、飛ぶんだジョー!』『スライム、使える……!』
しかし変身している時は会話することができないらしく、俺の脳内に直接テレパシーが流れ込んでくる。
ご主人様――――――いくよ!
次の瞬間、俺は高く舞い上がるった。地面が遠ざかって、御崎とおもちが小さく見える。
空を――飛んでいる。
「すげえ……」
古来より人は空を飛びたいという願望がある。
それによって飛行機、果てはスカイダイビングなんてものまであるのだ。
俺はその願いが、予想外にも叶ってしまった。
『凄いでしょ? ボク、変身できるんだ!』
「ああ、正直見くびってたよ。めちゃくちゃ凄いじゃないか」
『えへへ、あ、でも、思ってたより空飛ぶのって難しい』
すると羽根はバタバタとし始める。
「おい、スライム!? 大丈夫か?」
『あ、えあ、お、落ちるうううううううううう!?』
「って――おい――おい!?」
赤い羽根の変身が解け、徐々にスライムに戻って行く。
当然――自由落下。
「うわああああああああああああああああ!?」
「――動かしてあげるッ!」
しかし寸前のところで御崎がスキルで助けてくれた。
おもちも助けようとしてくれていたらしく、羽根を広げている。
『主、死んだかと思ったwwwwww』『消えたかと思ったら天高く舞い上がってて草』『もうすぐでダーウィン賞だった』
「……スライム、クビだ」
「えええ!? ごめんなさいッごめんなさいッ!」
そうして俺たちに、甘えん坊でドジな構ってちゃんのファイアスライムの仲間が増えたのだった。