「はっぴぃーばーすでー、俺……」
俺——山城阿鳥《やましろあとり》は、公園で一人寂しく誕生日を祝っていた。
コンビニで買ったケーキを見つめて、会社の不平不満を頭の中でぶちまける。
残業終わりの深夜、当然ながら周囲には誰もいない。
「……25歳か」
いそいそとスプーンを取り出して、夜風を感じながら一口。
「んまっ……」
今の仕事を一言で表すならストレスだ。
ありえない量の仕事に、もらえない残業代。
パワハラ上司に命を削られる毎日。
初めは良かった。優しい上司もいたし、頼れる同期も。
ただ、前社長が事故で亡くなって、息子に成り代わった途端、経営がズサンになった。
一人、また一人と辞めていく中、俺は踏ん切りがつかなかった。
次の仕事が見つかるのかもわからない。それにまだ残っている人を見ると、全てを押し付ける気がして辞められなかった。
上からは責められ、下は可哀想で、一体どうしたらいいのか……。
そのとき、空に赤い光が見えた。
物体が、炎のようにメラメラと揺らめいている。
それはまるで蛇行運転を繰り返す飛行機のように、ゆっくりと落ちていく。
「なんだ? 何が燃えてる?」
よく見るとそれは鳥だった。鳥が、燃えている。悲痛の鳴き声が、今の俺と重なって見えた。
急いで追いかけると、公園の空き地に倒れ込んでいた。大きさは猫ぐらい、苦しそうに声をあげている。
……昔、資料で見たことがある。たしか、伝説の魔物、フェニックスだ。
「キュウン……」
美しい羽毛、赤や黄色の光を放って、綺麗な炎を纏っている。
常人なら近づくことすらできない熱波だが、幸い俺には何の問題もなかった。
「おい、大丈夫か?」
数十年前、世界各地にダンジョンが現れた。それ以降、人類は魔法が何故か使えるようになった。
俺が授かったスキルは【炎耐性(極)】。
初めは喜んだ。極というのは、レベルを表しているが、最上級のものだ。ありとあらゆる炎を無効化する。
だが、攻撃ができるわけではない。
初めは消防士を目指そうと思ったが、手から水を出せるやつもいる。ただ無効化できるだけでは、お荷物と変わらなかった。
つまり俺のスキルは役立たずだったのだ。
今やダンジョンの攻略は職業の一つで、素材やアイテムで一攫千金を得たやつだっている。
基本的にダンジョン外にモンスターが出てくることはない。
だが、極まれにこうやって外に飛び出すやつがいたり、何らかの理由で外で魔物が現れたりもする。
理由はわからないが、危険とみなされたらもちろん討伐対象となる。
「伝説級が……なんで怪我してるんだ?」
「キュイッ!」
羽根に触れようとすると、思い切り威嚇された。もしかすると、人間たちに追い回されたのだろうか。
同じ火のスキルを持つものとして、なんだか切ない。
助けたい、そんな気持ちで、声をかけ続ける。
「大丈夫だ。俺はお前を怖がらせたりなんてしない」
ようやく気持ちが通じたのか、フェニックスは鋭い目を和ませる。再び羽根に触れると、一部が欠けていることに気づく。
何らかの攻撃を受けて、羽根がズタズタになっている。だから飛行がままらなかったのか。
鋭いスキルでも打ち込まれたのだろうか。とても苦しそうだ。
モンスター病院もあるが、ここからじゃ距離がありすぎる。魔力が弱っていくのが、感じる。
俺には傍にいてあげることしか……。
「……ごめんな」
ゆっくり撫でていると、後ろから何か魔力を感じた。かなり強い、殺気の籠った魔力だ。
驚いて振り返ると、そこにはとてつもなくでかいオークが立っていた。
ありえない、なぜ公園に?
慌てて離れようとしたが、思いとどまる。俺がここから離れたらフェニックスが無残にも殺されてしまう。
……たとえ助からなくても、そんな死に方だけはさせたくない。
「くそ……やってやる」
戦闘については、昔何度か学校で教わったことがある。
大したことはできないが、時間を稼げば助けがくるかもしれない。
オークの叫び声で公園が震える。覚悟を決めて、胸ポケットにあった万年筆を取り出す。
「でかぶつが、かかってこい!」
「グガアアアアアアアアアア!!!! ……ガ……ガ……」
しかしとてつもない赤い光が飛び出し、それがオークにぶち当たると、どでかい穴が開いた。
オークは地面に倒れ込み地震のように震わせた。
驚いたことに、それを放ったのはフェニックスだった。
身体中に纏った炎を打ち出したのか、今はただの真っ白い鳥になっている。
「俺を助けてくれたのか?」
「キュウ……」
駆け寄って、フェニックスを抱き抱える、だが、俺の腕で亡くなった。
本当にできることはなかったのか? くそ……。
と、思っていたら——フェニックスは、徐々に炎を纏いはじめる。
小さな火が、やがて全身を覆う。
そういえば、聞いたことがある。
フェニックスは——死ぬたびに強くなる。そして、不死身だと。
「キュー!」
元気になったフェニックスは、バサバサと羽根を広げた。まるで熱い抱擁のように、俺の肩に乗る。
「心配して損したぜ……」
「キュウキュウッ!」
まるでキスをしているかのように、嘴《くちばし》で俺の頬をつんつん。
何度も、つんつん。
まるで、『すきすき!』と言っているかのようだった。
俺——山城阿鳥《やましろあとり》は、公園で一人寂しく誕生日を祝っていた。
コンビニで買ったケーキを見つめて、会社の不平不満を頭の中でぶちまける。
残業終わりの深夜、当然ながら周囲には誰もいない。
「……25歳か」
いそいそとスプーンを取り出して、夜風を感じながら一口。
「んまっ……」
今の仕事を一言で表すならストレスだ。
ありえない量の仕事に、もらえない残業代。
パワハラ上司に命を削られる毎日。
初めは良かった。優しい上司もいたし、頼れる同期も。
ただ、前社長が事故で亡くなって、息子に成り代わった途端、経営がズサンになった。
一人、また一人と辞めていく中、俺は踏ん切りがつかなかった。
次の仕事が見つかるのかもわからない。それにまだ残っている人を見ると、全てを押し付ける気がして辞められなかった。
上からは責められ、下は可哀想で、一体どうしたらいいのか……。
そのとき、空に赤い光が見えた。
物体が、炎のようにメラメラと揺らめいている。
それはまるで蛇行運転を繰り返す飛行機のように、ゆっくりと落ちていく。
「なんだ? 何が燃えてる?」
よく見るとそれは鳥だった。鳥が、燃えている。悲痛の鳴き声が、今の俺と重なって見えた。
急いで追いかけると、公園の空き地に倒れ込んでいた。大きさは猫ぐらい、苦しそうに声をあげている。
……昔、資料で見たことがある。たしか、伝説の魔物、フェニックスだ。
「キュウン……」
美しい羽毛、赤や黄色の光を放って、綺麗な炎を纏っている。
常人なら近づくことすらできない熱波だが、幸い俺には何の問題もなかった。
「おい、大丈夫か?」
数十年前、世界各地にダンジョンが現れた。それ以降、人類は魔法が何故か使えるようになった。
俺が授かったスキルは【炎耐性(極)】。
初めは喜んだ。極というのは、レベルを表しているが、最上級のものだ。ありとあらゆる炎を無効化する。
だが、攻撃ができるわけではない。
初めは消防士を目指そうと思ったが、手から水を出せるやつもいる。ただ無効化できるだけでは、お荷物と変わらなかった。
つまり俺のスキルは役立たずだったのだ。
今やダンジョンの攻略は職業の一つで、素材やアイテムで一攫千金を得たやつだっている。
基本的にダンジョン外にモンスターが出てくることはない。
だが、極まれにこうやって外に飛び出すやつがいたり、何らかの理由で外で魔物が現れたりもする。
理由はわからないが、危険とみなされたらもちろん討伐対象となる。
「伝説級が……なんで怪我してるんだ?」
「キュイッ!」
羽根に触れようとすると、思い切り威嚇された。もしかすると、人間たちに追い回されたのだろうか。
同じ火のスキルを持つものとして、なんだか切ない。
助けたい、そんな気持ちで、声をかけ続ける。
「大丈夫だ。俺はお前を怖がらせたりなんてしない」
ようやく気持ちが通じたのか、フェニックスは鋭い目を和ませる。再び羽根に触れると、一部が欠けていることに気づく。
何らかの攻撃を受けて、羽根がズタズタになっている。だから飛行がままらなかったのか。
鋭いスキルでも打ち込まれたのだろうか。とても苦しそうだ。
モンスター病院もあるが、ここからじゃ距離がありすぎる。魔力が弱っていくのが、感じる。
俺には傍にいてあげることしか……。
「……ごめんな」
ゆっくり撫でていると、後ろから何か魔力を感じた。かなり強い、殺気の籠った魔力だ。
驚いて振り返ると、そこにはとてつもなくでかいオークが立っていた。
ありえない、なぜ公園に?
慌てて離れようとしたが、思いとどまる。俺がここから離れたらフェニックスが無残にも殺されてしまう。
……たとえ助からなくても、そんな死に方だけはさせたくない。
「くそ……やってやる」
戦闘については、昔何度か学校で教わったことがある。
大したことはできないが、時間を稼げば助けがくるかもしれない。
オークの叫び声で公園が震える。覚悟を決めて、胸ポケットにあった万年筆を取り出す。
「でかぶつが、かかってこい!」
「グガアアアアアアアアアア!!!! ……ガ……ガ……」
しかしとてつもない赤い光が飛び出し、それがオークにぶち当たると、どでかい穴が開いた。
オークは地面に倒れ込み地震のように震わせた。
驚いたことに、それを放ったのはフェニックスだった。
身体中に纏った炎を打ち出したのか、今はただの真っ白い鳥になっている。
「俺を助けてくれたのか?」
「キュウ……」
駆け寄って、フェニックスを抱き抱える、だが、俺の腕で亡くなった。
本当にできることはなかったのか? くそ……。
と、思っていたら——フェニックスは、徐々に炎を纏いはじめる。
小さな火が、やがて全身を覆う。
そういえば、聞いたことがある。
フェニックスは——死ぬたびに強くなる。そして、不死身だと。
「キュー!」
元気になったフェニックスは、バサバサと羽根を広げた。まるで熱い抱擁のように、俺の肩に乗る。
「心配して損したぜ……」
「キュウキュウッ!」
まるでキスをしているかのように、嘴《くちばし》で俺の頬をつんつん。
何度も、つんつん。
まるで、『すきすき!』と言っているかのようだった。