着物を着ると、なんだか気持ちがシャキッとする。帯で胴を締めるせいかもしれないし、普段と違う格好をしているせいかもしれない。

 着物での外出は人に見られるから緊張するが、特別感がさらに増して高揚する。
 地味に生きてきたつもりだが、本質は目立ちたがりだったのかな、なんて思う。
 改札を出ると、待ち合わせの相手はすぐに見つかった。

 彼女もまた着物姿だった。
 白いビーズの半衿に朝顔の描かれた藤色の絽の着物、縦ストライプの若草色の帯。帯締めは着物の青い朝顔から色をとって青藍(せいらん)、帯揚げはそれより薄い天色(あまいろ)、帯留めはガラス製だった。着物の袖からはレース生地のつけ袖が覗き、短めに着つけた着物の裾にもレースがちら見えしている。ショートヘアにベレー帽がとても似合っていた。バッグは以前にもみたことがある、母から譲られたという山葡萄(やまぶどう)のカゴバックだ。

「お待たせー!」
 小さく手を振って彼女に歩み寄る。
 一言投稿サイトを介して知り合った友達、岳河黎奈(たけかわれいな)だ。

「素敵な着物!」
 会うなり黎奈はそう言ってくれた。
「ありがとう。でもおはしょりがうまくできなくて」
 紗都は恥ずかしそうに答えた。

 おはしょりとは着物を着るときに折り返した部分のことだが、綺麗に整えるのが苦手だった。
「きれいに着れてるよ」
 黎奈はにっこりと笑った。