「ふうん」
相良先輩はさして興味もないような顔で、立ち止まる。病院の前を通り過ぎ、ちょうど目の前の信号が赤になったところだからだ。
この横断歩道を渡ったら、駅に着く。
俺はすぐ前を通り過ぎていく自動車を眺めた。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
なかなか青にならない信号を待っていると、横断歩道がないところを、杖をついたおじいさんが渡りはじめた。
車の通りはたしかに途切れていて、横断歩道まで歩くよりショートカットしたほうが駅の改札に近い。
それはわかるんだけど、さすがに危ないって。
俺は隣にいた相良先輩の前を通り、おじいさんのほうへ歩く。
おじいさんが道を真ん中まで渡ったくらいのとろで、キュッとタイヤがこすれる音が聞こえた。
あろうことか、右折してきた車が結構なスピードで突っ込んでくるではないか。
「おい!」
相良先輩の声が聞こえた気がした。
気付けば俺は道路に飛び出ていて、おじいさんの肩を抱えていた。
そのまま転がるように歩道へ倒れこむ。
皮膚がアスファルトに擦られ、破れるのを感じた。
凶暴なエンジン音が遠ざかっていく……。