「お前はもう少し広く周りを見て、自分で考える癖をつけろ。面の中の世界しか知らなくてどうする」
「はあ……」
「打たれすぎてバカになってんのか。とにかく来い」

たしかに剣道は頭を叩かれるけど、その発言はよくない。

スタスタ歩く相良先輩を追っていくと、文句を言う前にバッグを差し出された。

「荷物、多いほう?」
「え、多分……」

いつも飲み物を買うのがもったいないので、小さな水筒を持ち歩いている。

財布とスマホとそれさえ入ればOKだ。

「じゃあこれな」

黒くてひだのない餃子みたいな形のバッグをぽんと買い物かごに入れる。

「家に似たようなのあるときは、言えよ」
「はい」
「無地の白Tは」
「ありません」
「なんでそんなもんもねえんだよ」

それは、小さい頃の俺が食べることが下手すぎていつも服を汚していたからです。母から聞いた話です。
その名残か、母は絶対に白は買わない。

正直に答えたのに、相良先輩は舌打ちした。

「いいか、服がねえやつはとにかくモノトーンを選べ。黒は裏切らない。ただしベージュのチノパンは買うな」
「はい、ちょっと待って」

ナップサックの中からメモ帳を取り出すと「いちいちメモるな」と怒られた。

俺は至極真面目に取り組もうとしているのに。さっきから怒られてばっかりだ。

さすがにムッとして頬を膨らませると、近くを中学生らしき女子がふたり通りかかる。