「さすがに十万はないですけど」
「そんなにいらんわ。とにかくまずバッグをなんとかしよう」

一緒に新しいバッグを選ぼうということか。

正直、通学に使うわけではないバッグなぞいらないのだけど、先輩が選んでくれるなら喜んで買おう。

「御意」

返事が悪かったのか、数歩先を歩き出していた相良先輩がカメムシでも見るような顔で振り向く。

「漫画みたいなしゃべり方やめろ」
「ウィ」
「だーかーらー。まあいい、とにかく今日はお前をダサ男から卒業させてやる。黙って俺についてこい」

先輩は両手をポケットに突っ込んで歩き出す。

ただ歩いているだけなのに、まるでファッションショーのランウェイを歩いているような華やかさだ。

俺は推しのショーを見に来たオタク同然。

隣に並ぶなんて恐れ多い。少し後ろを歩いてついていく。

相良先輩は迷いなく、俺でも知っている量販店のテナントに向かった。前にも数回来ているのかもしれない。

ザ・ファストファッションのその店は、全国展開していて、同世代で知らぬ者はない。

子供服から女性もの、男性ものと幅広く網羅しているので、家族連れの姿も多く見られる。

「ここ、俺もよく来ます」

正しくは、母に連れられて来る。

下着なども安いので、重宝しているのだ。

「そう。なのになぜそのかっこうなんだ」
「俺も不思議です」

Tシャツは母がネットで買ったものだが、ハーフパンツはたしかここのものだ。

ちなみに、ナップサックは近所のファッションセンター。