まくし立てる田邊さんの迫力に押され、俺は一歩後退する。

田邊さんは俺より少し背が高く、がっちりしているので威圧感が大きい。

「すみません。稽古の時間がなくなっちゃうので」

青谷部長が俺と田邊さんの間に入ってくれた。

「これは失敬」

田邊さんは咳ばらいをし、ふうと息を吐いた。

「俺は相良くんとまた戦いたいんです。今の彼もいい……。彼はああ言っていたけど、また来ます」
「えっ」

嘘でしょ。普通、あんなふうに拒絶されたら心折れない?

相良先輩は明らかに迷惑そうな、いや、不快そうな顔をしていた。

「今の彼もいい」って、中学からのキャラ変を受け入れたってことか?

「やめてください」

俺は青谷先輩を押しのけ、帰る田邊さんの背中に言った。

「そっとしておいてください」

やっと、ほんの少しだけ、相良先輩は俺に心を許してくれたような気がするんだ。