「そうですか……」
たしかに相良先輩はぶっきらぼうだし、不真面目だけれど、そんなに悪い人ではない。
昔はとても明るくて爽やかで、いつもひとに囲まれているような人物だったんだから。
陰キャに妬まれることは、あったかもしれないけど。
「よし、今日も頑張ろう」
「はいっ」
俺たちは稽古を開始した。
この前のようなギャラリーは、ひとりもいなくて静かだ……と、思いきや。
入口のほうに気配を感じて振り向くと、なんと噂の相良先輩が立っていた。
「相良先輩!」
ついさっきまで噂をしていた二年生ふたりがギクッとした表情でこちらを見た。
俺はそんなふたりを置き去りに、相良先輩に駆け寄る。
「どうしたんですか。もしかして、入部……」
「なわけあるか」
別に茶化したわけでもないのに、相良先輩は舌打ちする。
「この前忘れ物したみたいだから、更衣室開けてくれん?」
俺を見上げる上目遣いに、思わずドキリとする。
相良先輩、かわいくない?