「おう小池、大丈夫か」
「あ、大丈夫です。お疲れさまでした」

更衣室にはちょうど片づけを終えた先輩たちがいた。

俺は手早く着替え、相良先輩の荷物を持って走る。

相良先輩の道着袋や竹刀袋は、すべてきれいなまま。大切に保管されていたのだろう。

彼はきっと、剣道が嫌になってやめたわけではないように思える。

じゃなきゃ勝ちにこだわることもないだろうし、そもそも俺の挑発にも乗らなかったんじゃなかろうか。

きっと、現役だった自分のイメージに体がついてこなかったんだ。

今頃、大いに悔しがっていることだろう。

戻ってくればいいのに。少しずつ体を慣らして、体力も戻して、そうしたらきっと、昔のように動けるようになる。

でも、俺がそんなことを言っても、相良先輩はきっと戻ってこない。

今の俺と彼の関係性では、たぶんムリ。

「無力だなあ……」

せめて、試合中の高揚感だけでも思い出してもらえたら。

あの胴は自分でもよく打てたと思うけど、相良先輩の情熱を取り戻すには足りなかっただろうか。

俺は速度を落とし、ゆっくりと保健室へ戻った。

荷物を受け取った相良先輩は、もういつも通りのクールな表情で、「先に帰れ」と命令する。

下僕の俺は、その通りにするしかなかった。