「って……」
「傷めたんですか」

相良先輩は唇を噛んだまま、返事をしない。よほど痛いのだろう。

さっきまでなんの問題もなく素早く動き、踏み込みもできていた。

転ぶようなこともなかったので、おそらく急に動きすぎたせいで足がつったとか、肉離れとか、そんなところか。

「失礼します」
「あ? お前、なにする……っ」

返事を待たず、俺は先輩の脇と膝裏に手を突っ込み、よいしょと抱き上げた。

「おい!」

耳元で先輩の低い声が響く。

「保健室まで行きますよ」
「やめろ! 離せ!」

相良先輩が嫌がるのもわかる。俺だってまさか、男子をお姫様抱っこする日が来るとは思っていなかった。

するほうはまだしも、されるほうはかなり恥ずかしいだろう。

先輩は手足をバタバタさせていたけど、足に痛みが走ったのか、すぐにおとなしくなった。

「つかまってください」

歩き出すと、彼は俺の肩に腕を回した。どうやら観念したらしい。

「くっそ……」

悔しそうな声を絞り出し、相良先輩は俯いて離さなくなった。

金の糸みたいな髪が俺の顎をくすぐる。

なんだかくすぐったいような妙な気分になり、歩みを速めた。