「引き分け?」
「剣道部と引き分けなんて、相良すげーな」
「本当は相良くんの勝ちだったんじゃない? 顧問が審判じゃ不公平だよ、やっぱ」

剣道はほかの競技と違い、勝ち負けがわかりにくい。

俺も最初はどっちがどこに入れたのか、全然見えなかった。

だからギャラリーがなにを言っていても、気にならない。

俺だって無関係のギャラリーだったら、ダサい俺より華のある相良先輩を応援にするに決まっているもの。

「じゃあ、延長戦を……」
「もういい」

相良先輩は乱暴に小手を取り、面紐をほどく。

面を取り去った彼の顔が見えると、女子から黄色い悲鳴が上がった。

そりゃそうだ。俺だってときめいてしまう。

彼の白皙に浮かぶ汗はさながら真珠だ。

「相良くん、かっこよかったよ!」
「うっせえ、見るな」

声をかけた女子がぽかんとしていた。

手ぬぐいを投げ捨て、早足で武道場から出ていこうとする相良先輩。

明らかに機嫌を損ねた様子の彼に、誰も話しかけられない。