「面あり!」

顧問の声が響く。

獲られた。速いが力も強い。防具をつけていてもめちゃくちゃ痛い。

飛んでしまいそうな意識をなんとかつなぎ留める。

「相良に一本!」

誰かが叫び、わああああと大歓声が起きる。

武道場が揺れそうな騒ぎに、顧問が「静かに!」と声を張り上げた。

蹲踞をした場所に戻り、試合再開。

制限時間は三分。あとどれくらい残ってる?

「やーーーーーーっ」

双方面を繰り出す。しかしどっちもいいところに当たらない。

すれ違い、振り向きざまに面を打ってくる先輩。

俺は夢中で腕を振った。

──ポコン!

いい音と手ごたえがした。

顧問の赤い旗が上がる。それを追いかけるように、もう二つの赤旗も上がった。

「胴あり!」

赤い旗ってことは、俺の一本だ。

ふつふつと喜びが胸に湧き上がる。

憧れの相良先輩から、一本獲った。

「戻って」

立ち尽くしていた俺に顧問が声をかける。

慌てて最初の位置に戻り、相良先輩と向き合う。

竹刀を構えて彼の目を見つめると、背中をざわざわしたものが走っていく。