「ちっ」

受け流されると思っていなかったのか、相良先輩の舌打ちが聞こえた。

彼は踵を返すと右足で床を踏み鳴らし、もう一度面を打ってくる。

さすがに速い。

今まで戦ってきた誰よりも速く高く、彼は飛び跳ねる。

俺はその竹刀を受け、なんとか避けるので精一杯。

どんなに腕を振っても、俺の打突は簡単に防がれてしまう。

なのに、なぜだろう。不思議と焦りはない。

相良先輩と剣道ができるのがうれしい。ありがたい。

鍔迫り合いになり、面の中の相良先輩の顔が近くに寄る。

まつげ、長い。

余計なことを考えた瞬間だった。

すっと鍔迫り合いを解消した相良先輩が、間髪開けずに飛び込んできた。

まずい。

首を傾げたが、遅かった。

先輩の竹刀は俺の面の中心を、確実に獲った。

ポコンといい音がして、パッと白い旗が三本上がる。