「なにあれ! かっこいい!」
「やったれ相良―!」

大きな歓声が沸く。

昔と変わらない、スーパースターのオーラ。

俺は自分の手が震えていることに気づいた。

──うれしい。

まるで恋焦がれるように憧れた相良先輩が、道場に帰ってきた!

「あいつ、礼もしないで」

部長が苦々しく呟く。

道場に入るときと出るときは、軽く礼をするのが礼儀だ。

忘れているということはないだろう。おそらくわざと。

「……道着もクソだせえな」

相良先輩がボソッと呟く。

俺が着けているのは、紺色の道着。上下洗濯機でガシガシ洗えるジャージ素材。他の防具も、初心者向けセット(それでも一式で十万円近く)で付いてくるスタンダードな藍色か黒。

しかも袴はくるぶしがしっかり見えるくらい短い。これは剣道界ではだいぶダサいこととされている。