「もう俺に話かけんな」

まるで悪い魔法をかけられたように、足が動かなくなる。

それは、もう二度とこんなふうに話すことはないということ。

さっきの時間は奇跡。神のような彼の気まぐれだったのか。

「いやです」

拒絶を受け入れてなるものか。

俺は先輩に駆け寄り、左手を掴んだ。

彼は驚いたような顔で振り返る。

「先輩、俺と勝負してください」

「あ? 離せよ」

「いやです。俺と剣道で勝負してください。先輩が勝ったら、先輩の言うことなんでも聞きます。もう話しかけたりもしません。その代わり俺が勝ったら、夏の総体で、団体戦一緒に出てください」

「なんでもって……お前、俺が勝って剣道やめろって言ったらやめるのかよ」

先輩は迷惑そうに眉を顰め、俺が握った手を振り払う。

「やめません」

「なんだよそれ」

「俺は負けないので、やめることにはならないです」

「は?」