「高校でもやるなんて物好きだな」
呆れたように見られて、俺は黙る。
だってそれは、先輩がまだ剣道をやっていると思っていたから。
あなたと一緒に上を目指したいって。
そんなことを口に出せばこの時間が終了してしまうのは、愚鈍な俺にもわかる。
少しでもこの貴重な時間を味わっていたい。
「俺には……剣道しかなくって」
「それは県大会敗退のやつのセリフじゃねえな」
辛辣な一言が胸に刺さる。
たしかに、「俺には剣道しかない」なんて、達人用のセリフだったかもしれない。
「わかってます。でも唯一向上したいって思うのが剣道なんで、やるしかないって言うか」
他には特にこだわりがない。
推しもいないし、好きなファッションの系統もないし、音楽も流行りの動画も表面をさらっただけで満足してしまうし、漫画やアニメもそこまでハマらないし、女子にモテたいという気持ちもない。
ただ、剣道だけはもう少しうまくなりたいなと思う。そのためにどうすればいいか考えたり、練習するのはまったく苦ではない。