「天然かよ」

先輩はクスクス笑う。

あ、よかった。こんなつまらないミスでも先輩が笑ってくれて。

ほわりと胸の熱がよみがえる。

「お前、昔からグズだったもんな。もうすぐリーグ戦始まるっつうのにウロウロしてて」
「そうなんですよ……って、覚えてるんですか⁉」

俺のことなんてかけらも覚えていないのではなかったのか。

ビックリして、戻しかけた蓋を持つ手が滑る。

カップが傾き、中身が零れる寸前に垂直に戻した。

「忘れてた。けど、思い出したんだ。お前が何回も顔見せるから」
「そうですか!」

何回もアタックした甲斐があった。

思い出は共有できたほうがうれしい。

「あんときはちっちゃかったのになあ。こんなでかくなって。全然かわいくねえ」

先輩は当時の俺の頭の高さを手で表わす。

そりゃああのときは中学生になったばかりで、百五十センチもなかったもの。