なにがツボに入ったのか、相良先輩は顔を逸らしてクスクスと笑う。
「わ……」
相良先輩が、笑っている。
我慢して噛み殺せきれなかった笑いが、口の端から漏れている。
細くなった目、白い歯。
変わっていない。相良先輩はこうやって笑う人だった。
うれしさがじわじわとこみ上げてくる。
「コスパいいと思って」
ベンティサイズのプラカップを掲げて見せると、相良先輩はまた吹き出す。
「ばーか。氷溶けたらまずくなるぞ。それまでに飲みきれんのかよ」
「あー……たぶん……?」
冷たいしカフェインには利尿作用があるし、これを一気飲みしたら何回トイレにいくことになるか。
それでも、彼が笑ってくれるならそれでいいと思えた。
「あほ。まぬけ」
「ひどい言いぐさですね」
「ほんと、変なやつ」
ふうと息を整え、もとのクールな顔に戻ってしまう相良先輩。
それだけで楽しみにしていた花火大会が終わってしまったような寂しさを感じる。
今の一瞬は、夢だったのだろうか。