今まで使うことを許されなかった上段のかまえや突き技を遠慮なく繰り出してくる先輩たちの竹刀を受けて返すのは、骨が折れる。

「いやでも本当に強いよ小池くん」
「突きやってみよう、突き」

先輩たちは純粋に剣道を愛していて、新参者の俺に熱心に指導をしてくれる。

強豪校ではコーチや先輩によるパワハラがあるなんて噂も聞くけど、ここはいやがらせとは無縁の世界。

心優しき坊主頭の世界なのだ。俺も坊主にすべきだろうか。

「よろしくお願いします」

今の俺は先輩たちと体格はそう変わらない。

打つタイミングや体の入れ方に慣れれば、もっとよくなるはずだ。

一通りの稽古を終え、休憩をしようと面を外すと、武道場の出入口にいる人物とはたと目が合った。そんな気がした。

しかし瞬きした瞬間、その姿は消えていた。

目が合った瞬間、びっくりしているように見えたその人は、間違いなく相良先輩だった。

あの金髪にあの美貌は間違えようがない。