「あっ、相良先輩! こんにちは!」

移動教室の途中、階段ですれ違った相良先輩に挨拶をする。

最初は「相良さん」と呼んでいたが、同じ学校の先輩後輩なので、先輩と呼ぶことにした。

同じ部活で活動する夢が破れたのだから、それくらい許されるだろう。

「うっせえ」

相良先輩は眉を顰め、それだけ言ってつんとそっぽを向いてしまう。

ああ、そうそう。相良先輩はそうでないと。

そっぽを向いた顎のラインさえ、きれいだ。

「お話してやれよー、相良」
「小池くんかわいそうだろー」

彼の取り巻きは、俺を敵視して攻撃してくるのではなく、相良先輩をからかう。

最初こそ敵対意識を向けられたものだが、俺のほうに純粋な憧れしかないとわかったのか、今では温かく見守ってくれている。

相良先輩は小さく舌打ちをし、スタスタと歩いていってしまった。

取り巻きも過剰に俺に構うことなく、一緒に去っていく。

「お前、なんであんな怖い先輩たちに話しかけるわけ?」

クラスメイトで仲良くしている藤井が、メガネの奥の怯えたような目を隠さず言う。