「どうして、やめちゃったんですか」

聞かずにはいられなかった。

だって相良さんは、俺の憧れで、目標で……。

しかし目の輝きを失った彼は、冷たく言い放つ。

「くせえから」

「え……」

「やってるやつは気づかないけど、周りはいつもくせえって思ってる。防具の匂いが体に染みついてんだ」

そうなのか?

たしかに部活中はめちゃくちゃ臭いという自覚はある。

けれど翌日の昼までにおいを引きずっているとは思わなかった。

クンクンと自分の手のにおいを嗅ぐ俺を軽蔑したような目で一瞥し、彼は踵を返す。

「あ、ま……」

こちらを一度も振り返らず、相良さんは行ってしまった。

においを気にして剣道をやめた?

そんなことあるだろうか。百歩譲ってそれが事実だとして、ヤンキーになる必要はないはず。

なにかショックなことがあったとか、家庭の事情とか、そんなんじゃないのか?

相良さんの背中から目が離せない。