「もう帰るんですか?」

彼は通学バッグを肩にかけている。

「今来たんだよ」

呆れたように言う彼は、俺を訝しげに見つめる。

なんと、もう昼なのに今来たと。完全な不良じゃないか。

いや、もしかしたら血圧が下がる病気とかで起きられなかったのかも。

別人のようになってしまった相良さんに驚きつつ、なんとか言葉を絞り出す。

緊張で胸が高鳴っていた。

「ずっと、お礼を言いたくて」
「礼?」
「中一のとき、初めての市内大会で、先輩は俺を助けてくれました。胴の紐を結んで、たすきを付けてくれて」

俺の言葉の途中で、彼は手をヒラヒラさせた。

その続きはいらない、と言うように。

「悪いけど覚えてねえわ。あと、俺はもう引退したから。過去の栄光にすがる気もねえし、お前も忘れろ」

高鳴っていた心臓にとどめを刺すような言葉。

周りの空気がひんやりと冷えたような気がした。