「そうなの。ありがとう。助かるよ」

彼女は律義にパン代をちょうど俺に渡すと、笑顔で戻っていった。

よし、俺も行くか。

教室に戻ろうとした俺の視界の端を、ふわりとした光がよぎる。

振り向くまでもなく、光は俺の真横をすり抜けていく。

相良さんだ。

一瞬目が合ったような気がするが、こっちが瞬きする間に光は遠ざかる。

「あの!」

俺は思わず相良さんに声をかけていた。

彼はゆっくりこちらを振り返る。

移動パン屋目当てで集まっていた生徒たちは、すでにほとんどいなくなっていた。

「俺、一年の小池涼太です。西中出身で、剣道部でした」

勇気を振り絞り、自己紹介する。

「……で?」

相良さんはにこりともせず、俺を見上げる。

なんてことだ。いつの間にか、俺は相良さんよりも少し大きくなっていた。