「まあまあ、人生いろいろだからな。とにかくここは楽しくわきあいあいな部活にしたいと思っているから。ぜひ入部してくれよなっ」

三十代後半と思われる顧問が笑って俺の肩を叩く。

俺は苦笑してうなずいた。


高校名の刺繡が入った道着ができあがったころ、俺はやっと高校に慣れてきた。

クラスの人とも話せるし、部活も楽しいし、先生もいい人たちだし申し分ない。

なのになぜか、心にぽっかりと穴が開いたような虚無感が、不意に押し寄せることがある。

それはたぶん、相良さんのせい。いや、違うか。

俺が勝手に期待しておいて勝手に裏切られた気になっているのだから、相良さんにしてはいい迷惑だろう。

彼のいない剣道部も楽しいけれど、物足りない。こんなはずじゃなかったと思ってしまう自分に嫌悪感を抱く。

「あー」
「どうした、小池」
「今日弁当ないんだった」