「もういい。冗談だから気にすんな」
大股で歩いていく彼を、必死に追いかける。
「全然思わないわけじゃないです! けど」
「けど?」
充希先輩が振り向く。俺は立ち止まる。
「あなたは俺にとって宝物で、絶対君主で、下僕の俺があなたを穢すようなこと、許されるわけがなく……」
必死で弁解する俺を、充希先輩はじっとりした視線で見る。
「俺の魅力が足りないんだな」
「そんなこと、一言も言ってないし、微塵も思ってない!」
魅力がないなんてどの口が言うのか。
俺だって男だから、好きな人に触りたい欲はある。
でも、なんて言うかなあ。
充希先輩は中学からの俺の心のサンクチュアリであるからして、俺の醜い欲望で穢すのは躊躇われる。
俺は下僕であり、信徒であるのだ。