「まあな。お前ら弱小剣道部が勝てたのは俺のおかげだよな」
「ですです」

えっへんとふんぞり返る相良先輩がかわいらしくて、俺は赤べこのように大きく首肯する。

しかし相良先輩は俺の反応に満足したふうでもなく、ぷいと横を向いてしまった。

「俺、お前のことわかんねえわ」
「はい?」
「お前、さっきのこと、忘れた?」

忘れた? なにか忘れてるか?

記憶を朝まで巻き戻し、少しずつ脳内再生する。

えっと、田邊さんが相良先輩に勝負を挑んで、なんとか三回戦まで勝って、でも先輩たちがそこで不安になって……。

「あ」

最も重要なことを忘れていた。

『優勝したらさ』
『キスさせてやってもいいぞ』

相良先輩のセリフがよみがえり、ごくりと唾を飲み込む。

そうだ。そんなやりとりをした。

「別にいいんだけど、俺は。どっちでも」
「いやややや、あの、その、俺も、その、できなくても……」
「しなくていいのかよ!」

そっぽを見ていた相良先輩が鬼の形相で振り向く。