彼の相良先輩に対する気持ちがどれほどのものだったか、俺にはわからない。

だけど、剣道で勝ちたいって気持ちは痛いほどわかる。

恋愛も大事だけど、剣道も大事。

「あの、足は大丈夫ですか」
「ああ、歩く分には全然」

平気そうに言う相良先輩だが、俺の試合中に湿布や痛み止めやテーピングをされていたことを、さっき青谷部長に聞いたばかりだ。

「お前こそ、肩やられたろ」
「はい、さっき見たら紫になってました」
「うーわ」

痛そう、と相良先輩は自分の肩をさする。

「でもお前、よく勝ったな。まさか相面で勝つとは思わなかった」
「相良先輩のおかげです」

相良先輩は練習中ずっと、「手首を使え」「手首を返すタイミングをはかれ」と怒鳴っていた。

大きく振りかぶって降ろす面より、小さくても手首を使った面のほうが速いからだ。

手首を使って打ったおかげで、俺の面は田邊さんの面よりもほんのわずか速く、入ったのだ。