母は「優勝の感動もこのにおいで消し飛ぶわ」と嫌な顔をしたあと、うれしそうに笑っていた。

わざわざ仕事の休みを取ってきてくれた家族に感謝。

剣道は集団競技じゃないけど、決してひとりではできない。

「今日は部活の日なんで」
「それはそうだけど、ダセえなあ」

いつものように罵りながら、相良先輩は上機嫌で笑う。

通りすがりの自販機で買ったペットボトルが、あっという間にぬるくなっていく暑さの中、彼は首筋にうっすら汗をかいていた。

暑いけど、防具をつけた状態での武道場より、屋外のほうがいくらかマシ……かな。

「あのあと田邊となんかしゃべった?」

川にかかる線路の高架下で、相良先輩が立ち止まる。

そこから河原に降りていく石の階段があったので、俺たちはそこに座った。

ちょうど日陰になっていて、少し涼しい。

「いいえ。田邊さんは男ですから。潔く身を引いたんじゃないでしょうか」
「あいつも剣道バカだからな。勝てると思った相手に負けて、恋愛どころじゃなくなったんだろう」
「そうかもしれません」