「頭上げろ!」
相良先輩の声が俺を救う。
警戒するあまり前のめりになっていた俺の脳天を狙い、竹刀を振り下ろされる。
俺はなんとか首を傾げた。面の真ん中を打たれなければ一本にはならない。
しかし、面を外した田邊さんの竹刀が、容赦なく左肩に直撃した。
重く鈍い痛みが首から指の先まで走る。
審判が旗を振り、試合は中断した。
「ごめんなさい」
田邊さんが謝ってきた。
「大丈夫です」
わざとではないことはわかっている。
外されるのは剣道あるある。うまくよけなかった自分が悪い。
「続けられる?」
主審に聞かれ、「はい」とうなずいた。
正直、めちゃくちゃ痛い。もう腕が上がらないかもしれない。
でも、こんな痛み、今まで相良先輩が受けてきた痛みとは比較にならない。
ちらと後ろを振り返る。
相良先輩が泣きだしそうな顔で俺を見ていた。
そんな顔をしないで。