「お待たせしました」

代表戦の相手は、田邊さんだった。

「きみか。相良くんでなくていいんですか」

面の中からくぐもった声が聞こえる。

そりゃあ、俺の実力は全盛期の相良先輩には遠く及ばない。

わかっていても、君主の命令を遂行するのは俺しかいないんだ。

返事をする前に審判たちが集まり、相手も黙った。

竹刀を構えて蹲踞をし、にらみ合う。

代表戦は、先に一本取ったほうの勝ち。

逆に言えば、一本取られただけで負けてしまう。

「はじめ!」

体躯の割に甲高い田邊さんの声が会場に響き渡る。

今までだったら威圧されてドキドキしてしまいそうなその声を聞いても、俺の心は不思議と凪いでいた。

田邊さんもチームの中では一番背の高い俺を警戒しているのか、さっきのようにパワーだけで押してこようとはしない。

お互いにらみ合ったまま、竹刀の先で相手の動きの気配を探っている。

と、その瞬間に田邊さんが大きく踏み込んできた。