「相良先輩」

目を合わせると、相良先輩は敵を威嚇するネコのような目で俺を見ていた。

「剣道を続けてれば、また強い敵とやれます。今は休んで」
「俺に指図すんな」
「これはお願いです。長く剣道を続けるためにも、今壊しちゃいけない」

袴の上から相良先輩の右ひざを撫でると、彼はびくりと身を震わせた。

「そうだよ。剣道、楽しいなら続けようよ」
「俺たちも相良くんともっとやりたいよ」

先輩ふたりも正座でお願いしはじめ、相良先輩は顔を歪めて脱力した。

「なんだよ、お前ら……マジで変態ばっかだな……」

相良先輩の目に真珠の涙が浮かぶ。俺はそれを見逃さず、そっと彼の頭を抱えるように抱いた。

「俺に命令してください、先輩」

相良先輩は床に落ちた手ぬぐいを手繰り寄せ、汗をふくふりで目元を拭った。

赤い目で真っ直ぐに俺を見つめ、決然と言う。

「……絶対に勝て、小池」

もう、田邊さんのこととかキスのこととか、どうでもよくなっていた。

ただ俺たちは、この勝負に勝ちたい。

先輩たちも「弱小校だから負けてもしょうがない」なんて言い訳しながら、実はずっと勝ちを望んでいたはずだ。

「御意」

俺はあなたの下僕。君主の命令は絶対だ。

手早く面と小手をつけ、立ち上がる。