「なんだよあいつ。卑怯な真似しやがって」

前田先輩の声が怒りで震える。

「あれが剣道なんだよ……」

青谷先輩が呟いた。

たしかに、体を当てるのも、鍔迫り合い解消のときに押されるのもよくあること。

先輩たちは優しいから、相手が転んだら立ち上がるまで待つ。しかし、そんなの関係なしにバンバン打ってゴロゴロ転がすのが強豪校。

隙を見せたら自分がやられる。

体格が違ったって、手加減しない。

それが本気の剣道なのだ。

そして、相良先輩は中学までの剣道しか体験していない。

上段の構えや突き技は練習していたけどまだ慣れておらず、それらを遠慮なく繰り出してくる田邊さんとは、相性最悪のように思えた。

もうすぐ時間が来る。

「相良先輩……」

さっき転がったときに足を痛めたのか、ゴリゴリ押してくる田邊さんに耐えている間に負担がかかったのか、彼の足がだんだんと動かなくなってくる。

ついに、田邊さんが大きく振りかぶって面を打ちこむ。

と同時に、相良先輩が踏み込み、がら空きになった胴を打った。

パアンと大きな音が響き、バッと審判の旗が上がる。