「二本負けしなかっただけ上出来だ。お前ら、めちゃくちゃ成長したよ」

聖母のような優しい声に、俺たちは拝むように手を合わせる。

「じゃ、行ってくる」

白い袴を翻し、相良先輩が試合場に出る。

白線の前でぴょんぴょんと飛んでから、中に入った。

相手はあの田邊さんだ。

二年生で大将ということは、捨て大将なのか、それとも三年生を上回る実力があるガチ大将なのか。

俺たちは固唾を飲んで見守る。

相良先輩ならきっと勝ってくれる。

足さえもてば……。

「はじめ!」

ふたりは試合を構えて向かい合う。

数秒、どちらも大きく動かずに相手の出方をうかがっていた。

「きえええええっ」

奇声と共に踏み込んだのは、田邊さんだ。

面を打ってきたが、相良先輩はそれを竹刀で受ける。

次々に繰り出される技に、相良先輩は冷静に応戦する。

「それにしても、大きいな彼は」

青谷部長がずれたメガネを直して言った。

田邊さんはマジででかい。

すらりとした相良先輩が小柄に見える。

そしてでかいわりに、動きが速いのだ。