「生きててくれてよかったです。本当に」

俺はそっと、彼の手を握った。そうしなければならない気がした。

「うん」

彼がそっと握り返してくる。その手のひらには、固い竹刀タコができていた。

「お前さ、変態でニキビあるけどいいやつだな」
「光栄です」
「優勝したらさ」

相良先輩が足を止めた。

青谷部長たちはもう姿が見えないくらい先にいる。

後ろにも人はいない。

そんな静かな空間で、彼は呟くように言った。

「キスさせてやってもいいぞ」

俺の中の時間が止まった。

無限に広がる宇宙空間に放り出されたような感覚に陥る。

キス……とは、あれですか。唇と唇の接触でありますか。

「嫌ならいい」

パッと手を離され、我に返った。

相良先輩はすでに数歩先にいる。

「嫌じゃないです!」

心臓が激しく高鳴る。

試合のときのほうが冷静なくらいだ。

「よ、よろしくお願いします! ぜひ!」

叫ぶと、相良先輩が笑った。

それはまるで夜空に煌めく花火のよう。

「声がでけーわ、バカ」

振り返り、彼は階段を駆け上がる。

残された俺は深呼吸して、その背中を追った。