背中をゾクリと冷たいものが駆け抜ける。

初めて田邊さんに対して怒りを覚えた。

俺の絶対君主を傷つけたら、許さない。

「ごめんなさい。それは気持ち悪かったですよね」
「うん。めちゃキショかったわ」

同意すると機嫌を直したように、相良先輩が振り向いた。

その顔はもう赤くなかった。

「勝ち負けって、学校の順位で決めるんですかね」

この地区の予選はトーナメント制。中学のときは市内予選もあり、リーグ戦を勝ち抜いてからのトーナメント制だったが、高校は数が少ないのでいきなりトーナメントだ。

田邊さんの学校は私立のスポーツ強豪校。たしか去年いい成績だったので、トーナメントではシードのはず。

俺たちが田邊さんと当たるには、決勝戦まで勝ち進まなければならない。

途中で負けたら、田邊さんの勝ちになるのか?

「わからん。でもあいつ、しつこそうな気がするからここでぶちのめしたほうがいいかもな」
「ぶちのめす」

ということは、意地でも決勝に進まねばならない。

ちょっと不安になった俺の道着を、相良先輩が引っ張る。

「おい小池、絶対に勝つぞ。俺、あんなゴリラに抱かれるの嫌だからな」

彼が至近距離で俺をにらむように見つめる。