「キショイって言うのはよくないです」
「は?」
「好きなのは仕方ないって言うか」

バッと俺の腕から相良先輩が離れた。

「お前、ゴリラの味方か」

軽蔑するような視線に、いたたまれなくなる。

しかも田邊さんのこと、ゴリラぽいって思ってたの、俺だけじゃなかったのか……。

「味方じゃないけど、気持ちはわかります」
「ああ?」
「だって相良先輩、かっこいいし綺麗だし強いし本当は優しいしかっこいいし強いし」
「やめろやめろ。誉め言葉がループしてる」

褒め始めたら止まらなくなった俺の口を、彼は手のひらで押さえる。

「っとに、お前もたいがい変態だよな……」

彼はブツブツ言って、俺に背を向ける。

見えなくなる寸前の頬が少し赤くなっていたように見えたのは、気のせいだろうか。

「あのゴリラに密室に押し込まれた俺の気持ちはわかってくれんわけ?」

背を向けたまま、相良先輩はため息をついた。

そうだよな。竹刀を持っていなければ、相良先輩は圧倒的に不利だ。

相手はゴリラだし、相良先輩は足にハンデがある。

力でねじ伏せられたら、ひとたまりもない。