な、なにが本気だって?

「どうしたんですか。ケンカでも?」

トイレの前まで来ると、他校の選手の姿がたくさん見えてきた。

立ち止まった相良先輩は、俺の腕を掴んだまま見上げる。

「いや……さっき運悪く見つかって……」
「見つかって?」
「告られた」
「こ、こくっ」

なじみのないセリフに、頭がついてこない。

ニワトリみたいになった俺に、相良先輩が芝居っぽく言った。

「僕がきみに勝ったら、付き合ってください。だと」
「はあーーーー⁉」

思わず大きな声を出した俺の脇腹を、田邊さんのモノマネをした相良先輩が肘でどつく。

息が詰まりそうになった俺は、自然と口をつぐんだ。

どういうことだ。田邊さんが、相良先輩に告白って。

「俺んこと、ずっと好きだったんだって。キッショ。断ったけど、あいつ人の話聞いてなさそうだな」

胸がずうんと重くなる。

わざわざ学校まで押しかけてきたときに、気づくべきだった。

彼は動画で相良先輩の姿を見て、うれしさで発狂しかけたに違いない。

俺には田邊さんの気持ちがわかる。

相良先輩の技だけでなく、存在自体に惹かれてやまない気持ちが。

失ってしまった宝物を、また見つけた時の高揚感も。想像に易い。